研究課題/領域番号 |
19K01707
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研究機関 | 関西大学 |
研究代表者 |
座主 祥伸 関西大学, 経済学部, 准教授 (40403216)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 担保 / コーポレート・ファイナンス / 英米法 / 大陸法 / 特定性の原則 |
研究実績の概要 |
本研究では、コーポレート・ファイナンスの文脈において、担保制度の違いが融資に与える影響について分析を進めている。
ファイナンス以前に存在している資産(例えば、不動産)をexisting assets (EA) とし、ファイナンス後に生まれる資産(例えば、売掛債権、在庫)をfuture assets (FA)として資産を分類した。日本のような大陸法の国では、融資の際に不動産が担保とされる割合が高く、米国のような英米法の国では売掛債権や在庫を担保する割合が高い。我々は、FAに関する担保制度が英米法と大陸法の国で違うことに着目し、制度の違いがどのような資産を担保とするかという「担保選択」の違いを生む可能性を考察した。法制度の認める担保化できる資産の範囲の広さが問題であるだけではなく、資産を「特定化」する必要が大陸法特有の考え(原理)としてあることが上記のような担保選択の違いを生むことを示した。近年、東ヨーロッパやいくつかの大陸法の国で担保制度に関する法改革が行われているが、制度が認める担保化可能な範囲を単に広げるだけでは不十分であることを本研究から指摘できる。日本では2000年代半ばの制度改革(動産・債権特例法の施行)によって、売掛債権や在庫を担保化することが以前より容易になったが、担保とするためには依然として資産を「特定化」する必要がある。その結果、担保化の限界費用が高くなり、担保化のファイナンスへの効果が打ち消されている可能性が高い。そのため、多くのEAを依然として担保として今後も求められる可能性が高い。前述の結果と併せると、日本ではFAの担保化は改善されたが、EAの担保化の要求が依然として強く、結果として、起業のインセンティブは大きく改善しているとは言えない、と評価できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究の期間中、コロナ渦にあって家族の罹患や子供の保育園の休園などによって、研究が進めることができない時期がいくつかあった。そのため、研究期間を延長した。22年度は、研究の総括の年として、現在行っている研究を出版することを目指す。
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今後の研究の推進方策 |
2013年に公表された「経営者保証に関するガイドライン」では、中小企業経営者に対する個人保証を用いない資金調達を促している。ただ現実には、保証人に頼った資金調達が行われている。本研究から得られる含意として、次のことが得られる。経営者への個人保証や個人所有の不動産を担保として求めることは、確かに経営者のモラルハザードを抑制することにつながる一方、経営者の事業を行うインセンティブを損なう。これは、事業承継の文脈では事業承継が十分に進まないことを意味し、起業の文脈では十分に起業されないことを意味する。
銀行が貸し倒れにならないようにしつつ(銀行の参加制約を満たしつつ)、モラルハザードの抑制する(誘因両立制約を満たす)ことは、在庫・売掛債権等のfuture assetsを担保とし、返済額を適切に設定することでも可能である。future assetsの担保化のためには、将来の生まれる在庫や売掛債権を担保とできるだけでなく、担保化に関する取引費用を小さくする制度的工夫が重要である。future assetsの担保化を制度的に容易にすることで、結果的に不動産等のexisiting assetsを担保する必要が小さくなり、経営者の事業へのインセンティブも損なわずにすむようになる。従って、日本にとって重要なことは、個人保証や不動産を担保としないことを求めるのではなく、そのような担保が必要とならないようなfuture assets に関する担保制度の改革がより重要である。 本研究の一部は、Collateral choice and entrepreneurship としてまとめ、Reviewerからのコメントを受け、現在、改訂中である。2022度中の出版を目指している。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ渦の影響で、子供の保育園の休園や家族の罹患のため、研究を進めることができない期間が複数あったため、2022年度の使用額が生じた。 2022年度は、研究成果の報告・出版にむけて、必要な備品・出張・英文校正等に研究費を使用する予定である。
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