研究課題/領域番号 |
19K01712
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研究機関 | 小樽商科大学 |
研究代表者 |
佐野 博之 小樽商科大学, 商学部, 教授 (60301016)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 脱税 / 税のコンプライアンス / 心理的費用 / ABM / シミュレーション |
研究実績の概要 |
2019年度はまず、脱税もしくは税のコンプライアンスに関する主要な理論及び実証研究をサーベイし論文にまとめた。これは、「脱税の理論と実証」というタイトルで、北海道大学の紀要「経済学研究」第69巻2号に掲載された。この論文では、理論研究と実験室実験やフィールド実験に基づく実証研究のこれまでの成果を概説するとともに、ABMを用いたシミュレーション研究が、それらの研究を補完するものとして重要であることを示した。とりわけ、税情報公開が脱税の抑止に与える効果についての研究は、理論研究と実証研究だけでは十分でないことを強調している。 アリンガムとサンドモによる理論モデル(ASモデル)の分析結果は、その後の実証研究による証拠と整合的ではないために、多くの理論モデルの修正と実験室実験を中心とした実証研究を創発した。中でも、ASモデルに基づく税のコンプライアンス率は多くの実証研究の結果と比べて低すぎるという点は、「なぜ人はあまり脱税をしないのか?」という疑問を生じさせる。これに対して、実験室実験を中心とした多くの研究は、金銭的動機の他に様々な心理的費用が納税者のコンプライアンス行動に影響していることを示している。 非金銭的動機は様々である。しかも個々の納税者によって非金銭的動機の強さも異なるであろう。本研究では、このような異なる動機を持った納税者の行動に税の情報公開が与える影響を、ABMに基づくシミュレーション・モデルを構築して分析しようとするものである。モデルでは、納税者は10の所得階層のいずれかに属し、リスク回避度、生来の納税に対するモラルの強さ、他の納税者の選択に影響される互恵的動機の強さ、脱税が発覚することにより負うスティグマ費用の大きさが異なる数千の納税者を設定している。このモデルの下、税情報公開の効果をシミュレーション分析しようとするものであり、そのためのコードの完成を目指している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
計画では、2019年度当初からシミュレーション分析を行う予定だったが、実際にテストを繰り返している中で細かな修正が必要になった。さらに、シミュレーション・モデル自体をさらに強化する必要性を認識した。具体的には、エージェント(納税者)の異質性を示すパラメーターとしてリスク回避度を加えるべきと判断し、適切なモデルの修正とコードの変更に時間がかかった。加えて、前半はサーベイ論文の執筆に思いの外時間がとられたことも理由の一つである。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度前半は、新型コロナウイルスの影響で遠隔授業となっており、オンライン教材の作成に時間を取られている。年度前半は、そのような中でもできるだけ時間を見つけて、シミュレーション・モデルのコードを修正しテストを行う。年度後半にはシミュレーション分析を行い、その結果に基づいて論文をまとめる。
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次年度使用額が生じた理由 |
英文の論文執筆ができなかったために、学会発表のための旅費や論文投稿に関わる支出がなかったため。今年度は論文の執筆とそれに関する学会発表を計画している。
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