研究課題/領域番号 |
19K01715
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研究機関 | 一橋大学 |
研究代表者 |
堀 雅博 一橋大学, 大学院経済学研究科, 教授 (50284667)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 消費税 / 付加価値税 / 逆進課税 / 家計消費 / 恒常所得仮説 / ライフサイクル仮説 |
研究実績の概要 |
本研究は、これからの時代の日本財政の基幹財源として期待されている消費税(付加価値税)が我が国世帯の所得・消費の分布や消費行動にどのような影響を与えているかを分析し、今日的重要性の極めて高い政策課題への含意を導くことで、証拠に基づく政策形成(EBPM)に貢献する成果を上げることを目的としている。 より具体的には、①複数の統計調査の個票を補完的に組み合わせて使用し、単一統計ベースの先行研究が対処しきれていなかった諸課題に対処して実証的な分析・検証を行うこと、②学術的関心に基づく理論仮説(恒常所得仮説)の検証に止まらず、我が国の実際の政策運営の観点からも特に重要な政策課題(更なる消費税活用の可否)に焦点を当てた問題設定を行うこと、更には、③その結果の周知により、経済学者(専門家)と国民一般の間に存在する(消費税に係る)大きな認識の乖離を埋め、我が国の喫緊の課題である財政再建を進める上での障害の除去につなげることを目指している。 2019年度においては、これらの課題の中でも、特に、全ての研究計画を実施するためのベースとなる複数統計(「国勢調査」、「全国消費実態調査」、「家計調査」、「家計消費状況調査」)を補完的に組み合わせたデータベースの構築と、それを用いた予備的ファクトファインディング作業に力を注いだ。個別世帯の消費税負担の正確な計測に使えるようなデータベースは、意外にも、これまで存在していなかったことから、本研究におけるデータベースの構築により、消費税と我が国世帯の消費行動の関係に係わる研究は大きく前進させられるものと期待できる。 2019年度には、これに加えて、消費税についての経済学者(専門家)と国民一般との大きな認識ギャップの実態をとらえるべく、消費税に係わる著作・出版物の収集、整理を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2019年度は、研究計画の遂行上の基礎となるデータベースの構築に専ら注力したが、データベース構築に必要となる個別統計の個票の入手、及び入手したデータを統合するためのデータクリーニング作業に手間取ったことは否定し難い。 特に、「国勢調査」については、個票のサイズの大きさがネックになって、全てのデータをまとめて作業することができず、各年別に作業を行うこととなった。また、「家計消費状況調査」については、入手できた個票の質が、当初想定していた以上の問題を抱えていることが明らかとなったため、その補正作業に当初計画以上の時間を要した。 こうしたデータベース構築作業の遅れの結果、データを活用した分析作業の開始も遅くなり、年が明けて2020年初にようやく可能になった。データ分析作業については、基礎的ファクトファインディングを進める等、概ね予定したペースで進んでいるが、分析作業開始の遅れが響いて、消費税の逆進性の評価等、当初2019年度内に計画していた研究のまとめを行うことができなかった。
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今後の研究の推進方策 |
研究計画の完遂に不可欠なデータベースの構築が概ね完了したため、今後は、データを活用した分析作業、及び、論文の執筆作業に注力する。 具体的には、まず2019年度に予定していた「消費税の逆進性の評価」に関する分析と論文執筆・公表を急ぎ、その後、「消費税率の引上げが世帯消費行動に与える影響のミクロ分析」を行う。 また、「消費税率の変更がマクロ経済に与える影響に関する国際パネル分析」についても、2020年度中にデータベースの構築を進める。 加えて、本研究計画では、研究成果の周知により、経済学者(専門家)と国民一般の間に存在する(消費税に係る)大きな認識の乖離を埋め、我が国の喫緊の課題である財政再建を進める上での障害を除去することもその目的に位置づけていることから、論文がまとまった段階で(可能な限り早めのタイミングで)内容を学会に報告する他、一般誌に寄稿する等して、成果の周知を図りたい。 なお、折からのCOVID-19感染症問題により、官庁や大学の設備へのアクセスが制限される等、2020年度については、相当程度、想定外の状況の下で研究遂行を求められる可能性が高い。そうした状況下でどこまで目論見通りに研究を進めることができるのかは予見し難いが、従来はあまり利用していなかったテレワークや電子会議システム等を積極活用する等の対応で、できるだけ計画を遂行実現できるよう努力したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究では、初年度に当たる2019年度に大型機材(ワークステーション)を購入し、それを用いたデータベースを活用した分析を行って論文執筆を進め、その途上で英文校閲等を外注するとともに、学会報告を行い、また専門家と意見交換を行うために旅費を支出することを計画していたが、データベース作成作業に当初予定以上の時間を要したため、論文執筆、及び発表、意見交換の段階まで到達せず、結果として、予定した支出を実行せずに年度をまたぐこととなった。 2020年度については、COVID-19感染症の蔓延により、予算の執行が意図通りに進められるか否か不透明な状況になっていることは否めないが、分析作業、及び執筆、発表等が計画に従って進めば、2019年度未執行分の大半は2020年度中に活用できると考えている。
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