本研究の目的は,政府が就労可能な低所得者にどのように再分配すればよいのかという問題を理論的に検討することである。グローバル化の進展や非正規労働など雇用形態が多様化する一方,少子高齢化の進展で労働人口が減少する中で,低所得者向けの所得課税・再分配政策を再考する必要がある。そこで本研究では,家計の労働供給行動として就業選択行動を採用した最適所得税モデルを構築し,誘因両立的な所得再分配政策を提示するための理論的分析を行う。 令和4年度も,労働供給行動として就業の選択を採用した最適所得税の静学的モデルと動学的モデルの両方について下記のように検討した。 1.労働需要側を考慮するために,非自発的失業者と自発的失業者の両方が存在するモデルで給付付き税額控除と失業給付の役割を検討した。令和3年度に引き続き,シミュレーション分析と論文の改訂作業を続け,海外雑誌への論文投稿を行った。査読結果を踏まえ,モデルを大きく変更することとし,失業者が失業給付を誤用して受給したとしてもその有用性が低下しないことを明らかにしている。今後,海外雑誌への掲載に向けて,シミュレーション分析と論文の改訂作業を進め,投稿する予定である。 2.資産分布が内生的に決定される動学的な就業選択モデルにおいて,定常状態における給付付き税額控除の有用性について検討した。この研究成果は日本経済学会2022年度秋季大会において発表した。今後,海外雑誌への掲載に向けて投稿を行っていく。 3.高齢者の退職行動を明示的に扱った就業選択モデルを用いて高齢者の退職行動と貯蓄行動を前提として,どのような制度設計が望ましいのかを最適課税論の観点から検討した論文「老後の資産形成と高齢者の就業選択―就業選択モデルに基づく最適所得税からの理論的整理―」の研究報告書への掲載が確定している。
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