研究課題/領域番号 |
19K01721
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
風神 佐知子 慶應義塾大学, 商学部(三田), 准教授 (00510851)
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研究分担者 |
遠藤 正寛 慶應義塾大学, 商学部(三田), 教授 (80281872)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 波及効果 / 大企業 / 集積 / IT産業 / 非正規雇用 |
研究実績の概要 |
大企業が地域雇用に与える影響およびその波及効果について分析を行った。具体的には、地域の小規模企業の事業所に与える影響について産業別・雇用圏別に推計した。その結果、情報通信業、学術研究・専門サービス業、医療福祉産業は同一雇用圏の同じ産業の小規模事業所の雇用に正の影響を与えていた。しかしながら、これらの産業の大企業は都会に集中している。よって正の影響の恩恵を受ける地域とそうではない地域とで差が生じる。比較的地方にも大企業の事業所が立地している製造業では正の影響は観察されなかった。さらに、大企業が地域経済に与える影響について分析を行った。前述の大企業は同一雇用圏の卸小売業に対し、小規模企業の事業所の非正規に対してのみ正の影響を与えており、正規雇用の増加は観察されなかった。また、地域の情報通信業、学術研究・専門サービス業、製造業の大企業が地域の卸小売業の小規模企業の労働生産性に対しては予想と反対に非有意・有意に負の影響を与えていた。 企業規模別に行われる政策は日本に限らず各国で見られる。筆頭は景気変動の影響を受けやすい小規模企業への金銭的政策だろう。大企業によるロビー活動も多くの国で行われている。また、大企業の発展が中小企業や地方にまで波及する「トリクルダウン効果」も理論として確立・実証されていないが根強くささやかれる。さらに、日本では地方創生の一つとして大企業との協働が掲げられることもある。しかし、大企業の正の影響は地方の産業構造により異なり、かつ、大企業の集積には地域差がある。また雇用形態によっても影響は異なる。政策ではこれらを考慮する必要がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
企業規模間の波及効果について地域差や雇用形態の差を考慮した分析を行うことができ、学術雑誌に投稿済み(査読審査中)であるため。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度には新型コロナウイルス感染症が世界で流行し雇用にも大きな影響を与えた。世界金融危機などの景気変動は、世界景気の影響を受けやすい製造業などが強く影響を受け、製造業はtradableなセクターであるためその影響は様々なセクターに波及し、そのため地理的にも国レベルで影響を受ける。これに対し、新型コロナウイルス感染症は一国内でも地域により感染度合いやそれに伴う人の流れに差が生じている。これはアメリカやEUなど他の国でも同様である。また影響を受ける産業は飲食店などnon-tradableなセクターである。理論的にはnon-tradableセクターの他への波及効果は小さい。景気変動ショックと感染症ショックとで雇用への影響の波及効果に差があるのかについても、当初の研究計画に加えて分析を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年度はカリフォルニア大学バークレー校のエンリコ・モレッティ先生を日本にお招きして研究議論などを行う予定であったが中止となった。また、2020年6月の国際学会はオンライン開催に変更となり渡航費や宿泊費が生じなかった。これらによる残額はオンラインでの国際研究に係る費用やデータの購入にあてる計画である。
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