本課題研究の目標は、大企業や都市部での雇用が、中小企業や地方の雇用創出へどのように波及するかを検証することである。2023年度は、第一に、生産性の高い部門が生産過程を経て他部門にも影響し、労働者の所得や雇用創出にどのような効果をもたらしているのか、都道府県別産業連関表のデータを使って生産面から波及効果を分析した。 生産性と乗数効果は多くの都道府県で負の関係にあり、乗数の高い部門は生産性水準が平均を下回り、下流部門への主要なインプットが高価であるため、労働者一人当たりの所得が減少する。例えば、商業部門は多くの都道府県で大きな乗数を持ち、生産過程を通じて増幅されるが、その生産性は低く、所得の増加に大きく寄与しない。また、情報通信機器部門の生産性は東京都より高い県もあるが、乗数が低いため県内ではあまり増幅されない。さらに、生産性の高い部門が生み出す雇用は他の部門よりも少ない。反対に他部門の雇用創出に大きな影響を与える部門は乗数が小さいため、生産過程を通じてうまく増幅されない。単に地域で特化している産業や得意としている産業を強化するだけでなく、そこからの波及にも目を配る必要があると言える。 第二に、波及の阻害要因になり得るスキルと地理的移動に着目した。スキルと知識の詳細な種類別に、事業所が求めるスキルの変化が労働者の転職に与える影響を分析すると、日本においてもいくつかの種類のスキルや知識は転職後の賃金を引き下げていた。さらに、職能横断スキルは転職者の地理的移動に影響を与えるが、基礎スキルや知識は影響を与えない。労働者が土地に縛られ、その地域での要求スキルがないと賃金が下落することが明らかになった。地域別雇用政策の必要性が改めて確認できた。第三に、事業所のソフト費用投資がスキルや知識に与える影響も製造業や非製造業、スキル・知識の種類により異質であることが明らかになった。
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