研究課題/領域番号 |
19K01722
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研究機関 | 駒澤大学 |
研究代表者 |
江口 允崇 駒澤大学, 経済学部, 准教授 (40600507)
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研究分担者 |
岡野 衛士 名古屋市立大学, 大学院経済学研究科, 教授 (20406713)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 財政政策 / 金融政策 / 最適金融政策 / デフォルト |
研究実績の概要 |
2020年度は、東京都立大学の飯星博邦教授と共同で、財政政策と金融政策のレジームスイッチを導入したDSGEモデルを構築し、財政・金融政策のレジームによって財政乗数がどのように変わるかの分析を行った。この背景には、昨年発生したコロナ危機に対して、世界中の政府が空前の財政政策を打ち出したことがある。こうした大きなレジームの変化が生じているもとで、財政政策の短期間な効果及び、長期的な帰結がどうなるかをDSGEモデルベースで分析する必要があると考えた。そこで、Bianchi (2012)の論文で示されたMarkov Switching DSGE (MS-DSGE) modelのアプローチを用いて、財政・金融政策のレジームによってどのように財政支出の効果が異なるかを検証した。マルコフスイッチの仮定を置くことで、通常は一意的な合理的期待均衡解が得られない財政政策と金融政策がともに activeな場合と、ともにpassiveな場合も含めて分析を行うことができる。その結果、財政政策がactiveになる可能性がある場合は、リカードの等価定理が成立せず、減税が消費やGDPを増やす効果をもつことが明らかになった。また、通常はpassiveな金融政策のもとでは財政乗数が著しく大きくなると思われているが、passiveな場合でもテイラールールの係数が0.9など大きな値であったり、activeなレジームに遷移する確率が高い場合は、それほど乗数は変わらないことが示された。また、政府支出が公共投資を通じて民間の限界生産性を上昇させる場合、長期的にはデフレが生じることになるが、その場合はactiveな金融政策の方が利下げで対応できるために、乗数が上がることになるも示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題の目的は、デフォルトリスクが存在する場合の最適な財政・金融政策について分析することであり、その目的自体は既に昨年度におおむね達成されていると言える。今年度はコロナという未曾有の危機に伴う社会情勢の変化に促されてやや研究の方向性を変えたが、今年度構築したレジームスイッチを伴うDSGEモデルにデフォルトリスクをさらに導入し、本研究課題をさらに発展させることができると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
現在、さらに2つの研究の拡張を行っている。一つはArellano et al. (2020)で提示されたStrategic Defaultを伴うニューケインジアン型DSGEモデルを外債ではなく内国債に修正したモデルを開発するものである。Arellano et al. (2020)は、Gali and Monacelli (2005)タイプの開放経済型のニューケインジアン型DSGEモデルに政府のStrategic Defaultを導入したモデルであり、自国民は国債を保有せず、リスク中立的な外国人投資家に対する対外債務だけが存在するものと仮定している。本研究ではこのモデルを閉鎖経済に修正し、リスク回避的な自国民が国債を保有するものとする。国内債務がデフォルトするメカニズムについては、Hur, Kondo and Perri (2018)に倣って、政府と自国の貸し手の割引率が異なるという設定を用いる。 もう一つは、Gali (2020)で提示された閉鎖経済モデルにおけるマネーファイナンスによる財政政策の分析を、開放経済モデルに拡張するものである。現在様々な国で、中央銀行が国債を直接引き受けるマネーファイナンスによる財政政策が政策論議の中で取り沙汰されている。Gali (2020)は閉鎖経済を仮定した上でゼロ金利下ではマネーファイナンスによる財政乗数が上がることを示しているが、開放経済では財政・金融政策は為替の変動を引き起こし、財政乗数にも影響を与える。この研究では、経済の開放度や、パススルーの度合いによってどの程度マネーファイナンスによる財政乗数が変化するかを分析していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍で出張の回数が減ったため。
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