研究課題/領域番号 |
19K01727
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研究機関 | 京都産業大学 |
研究代表者 |
菅原 宏太 京都産業大学, 経済学部, 教授 (90367946)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 費用最小化行動 / 地域間参照行動 / 確率フロンティア分析 |
研究実績の概要 |
本年度の研究実績は次のとおりである。 1.菅原宏太(2021)、「用水供給事業の普及による料金平準化の是正-水道事業における上下分離方式の導入-」、『地方財政』、p.4‐15. 水道事業の料金回収率悪化の背景に、料金平準化行動が取られていること、都道府県内での用水供給事業の普及率が高いと料金平準化が抑制される傾向にあることから、用水事業部分の統合の有用性を提言した。 2.塩津ゆりか・菅原宏太・柳原光芳(2022)、「水道事業における民間委託の効率性分析」、『地方分権に関する基本問題についての調査研究会報告書・専門分科会(財政マネジメントの強化)』、p.24‐37. プリンシパル・エージェント理論に基づいた費用関数の確率フロンティア分析より、熟練技術職員割合が高いもしくは第三者委託を進めている事業者における非効率性を明らかにした。 3.井田知也・小野宏・菅原宏太・倉本宜史(2022)、「都市スプロールが水道サービスの供給費用に及ぼす影響」、(掲載誌は同上)、p.72‐97. 都市スプロール化指標を含めた水道事業の支出関数推定より、都市スプロール化が深刻な市町村ほど水道事業の供給費用が高くなっていることを明らかにした。 4.齊藤仁・菅原宏太・倉本宜史(2022)、「水道事業における費用非効率性と規模の経済性に関する検証-短期費用関数を用いた分析-」、『公共選択』第77号、p.73‐88. 資本設備を外生とする短期費用関数に基づく確率フロンティア分析より、特に小規模事業者における費用非効率性および規模の経済性を明らかにした。 5.日本財政学会第78回大会において、「Tax competition and tax-base equalization in the presence of multiple tax instruments」(松本睦 名古屋大学大学院)に対する討論を行った。垂直的および水平的財政外部性に対する歳入均等化補助金の効果について、地域の非対称性を踏まえた意見交換を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2020年度に行った日本の地方交付税制度のインセンティブ問題に関する実証分析は(査読付き雑誌に投稿中)、査読者との議論において、分析で用いた4つの政策変数のそれぞれで漸増主義的行動や転移効果の程度が異なるのではないかとの指摘があり、本年度はそれについての検証を進めた。また、中井(2007)『地方財政学-公民連携の限界責任-』で用いられている対比係数について、その構成要素である一般財源充当対象経常経費、基準財政需要額、基準財政収入額について年次的な変化を精査した結果、各都道府県において転移のタイミングが異なるために、分析のためには人口構造等の追加的な情報が必要であることが分かった。 また、菅原(2021)のカクワニ係数による分析からは、水道事業の料金単価と給水原価の乖離の背景には、同一県内の他団体の料金水準の参照により、独立採算のために十分な水準の料金を設定していない事業者があり、それが可能となる一般財源繰入の可能性が疑われる。これも、予算制約のソフト化の事例の一つと言える。それに加えて、塩津ほか(2022)をはじめ、本年度に研究代表者が関わった水道事業に関する一連の研究ではいずれも、企業会計ベースで運営されている地方公営企業でさえも、様々な要因によって費用最小化行動が阻害されている可能性が明らかになった。 しかしながら,本年度は新型コロナウイルス感染防止の観点から,地方自治体等への訪問によるインタビュー調査を通じた定性的な分析を行うことができなかったため,上述の実証分析の結果の解釈においてその可能性を付随的に推察できたに過ぎない。 そこで,今後の研究においては,第1に,漸増主義的行動や転移効果を計量分析によって捉えることに取り組む。第2に,計量分析の結果に基づいて,行政の現場における意思決定の実態を把握するためにアンケート・インタビュー調査による定性分析に取り組む。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度より取り組んでいる地方交付税制度のインセンティブ問題に関する実証分析については,第1に,地方自治体の裁量的決定の余地がある普通建設事業費の地方単独事業費について,扶助費等の裁量的決定の余地の少ないと思われる歳出項目との比較を通じて,歳出と地方交付税交付額との因果関係および漸増主義的行動を検証する。第2に,中井(2007)の対比係数の構成要素に関する統計分析上の問題をクリアし、基準財政収入額の変化が、一般財源充当対象経常経費および基準財政需要額の変化に与える影響を分析する。これにより、地方交付税制度を通じた総務省および都道府県における漸増主義的行動や転移効果を検証する。これらの分析結果に基づいて、国が策定する地方財政計画と地方自治体の予算編成プロセスとの連関および地方自治体内での予算配分決定の実態を調査するために、総務省および都道府県の関連部署へのインタビュー調査に取り組む。 水道事業を具体事例とする研究については、次の2つの拡張を考えている。第1に,民間活用の取組みに対して,地方交付税制度を通じた財源措置の影響をプリンシパル・エージェント・モデルおよび民営化の理論モデルによって理論的に考察する。すなわち、地方自治体における一般会計と公営企業会計の間での予算制約のソフト化が、経費削減インセンティブの喪失と民間委託の進捗状況に与える影響を理論分析する。第2に,費用最小化行動を前提としない一般化費用関数の推定によって、水道事業の規模の経済性が、どのような規模の事業者にまで働くのかを実証分析する。併せて、費用最小化に対する一般会計繰入金の効果も検証する。これらの分析結果に基づいて、一般会計と公営企業会計との財政上の相互関係、および民間委託の導入状況の自治体間での差異についての現状を把握するために、地方自治体や広域水道事業団へのインタビュー調査に取り組む。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症感染防止のため、参加を予定していた学会がオンライン開催となった。また、地方自治体等への訪問を通じたインタビュー調査も自粛した。これらのために、本年度に旅費を使用することができず、次年度使用額が発生した。 これらについて、次の使用を計画している。第1は、学会や研究会などへのオンライン参加および研究者間でのオンライン打ち合わせのための機器の更新として物品費を計上する。第2は、インタビュー調査のための旅費を計上する。ただし、これについては本年度同様に新型コロナウイルス感染症の感染状況を踏まえて実際の使用を調整する。
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