菅原宏太(2024;「11.備考」に記載)では、地方政府による公的消費財および公的中間財供給を組み込んだ2地域経済成長モデルを基にして,地方交付税措置が地域間経済収束と経済成長率に与える影響を試算的に実証分析した。 そもそも、本研究課題の目的は、先行研究で行われてきた分析手法に新たな条件を加えて地方自治体の戦略的行動の有無を明らかにすることだった。しかしながら、過年度における投稿論文への査読者の指摘や研究報告を基にしたセミナー等の参加者との意見交換を通じて、戦略的行動の有無の経済学的な帰結に関する認識が曖昧であるという考えに至った。そこで、地方交付税の経済的な影響を分析することで、帰納的に戦略的行動を考察することにした。 まず、理論モデルによる分析では、低生産性地域への補助金配分率の上昇が、地域間の経済格差是正をもたらすものの、経済成長自体には負に作用するという、ある種の再分配パラドクスを明らかにした。更に、地方自治体が、生産に寄与する公的中間財にではなく住民効用に寄与する公的消費財への財源配分割合を高めると、このパラドクスがより顕著になることも明らかとなった。 次に、理論モデルにおける補助金配分率の代理変数を組み込んだ地域間収束推定式を、日本のデータを用いて推定した。ここで、代理変数として都道府県別の地方交付税配分率(都道府県・市町村合計に基づく)を用いた。実証分析の結果、1人あたり県民所得が小さな県への地方交付税配分率が大きいほど地域間収束の速度が速くなること、しかしながら、経済成長には負の影響があることが明らかにされた。すなわち、中央政府の地域間再分配政策は、経済格差是正という効果はあるものの、他方で地方自治体の行動変容をもたらすことで、地域経済の長期的な成長を阻害している可能性がうかがえた。
|