標準的なライフサイクルモデルでは、退職などの予期される所得の変化に対して消費を平準化するとされるが、実際には退職時に消費が減少する「退職消費パズル」が観察されている。このパズルを解明するため、本研究では日本の長期家計パネルデータを使用し、様々な要因を検証した。 研究では、仕事に関連した支出や外食費の減少、余暇時間との代替、予期せぬショック(失業や健康の悪化)、流動性制約など、ライフサイクルモデルで説明可能な要因を探求した。さらに、貯蓄や負債の面からもアプローチし、近視眼的損失回避や双曲割引、符号効果など、行動経済学的な要因の影響も検証した。 本研究は、慶應義塾大学の「日本家計パネル調査」と大阪大学の「くらしの好みと満足度パネル調査」を用いて、時間割引率が年齢に依存せず一定であるという仮定の妥当性を検証。これらの調査データを基に、東北大学やフランクフルトゲーテ大学の研究者と共同で、年齢に依存した時間割引率を考慮することの重要性を指摘した。 また、自然実験として東日本大震災を利用し、不利な経済状況が夫婦関係の解消(離婚)や家計内の資源の再分配に及ぼす影響を多角的に分析。特に震災が幼い子どものいる共働き夫婦や専業主婦世帯に与えた影響に焦点を当て、経済的理由から離婚率が低下する傾向を明らかにした。この研究により、経済的な要因が夫婦の関係に与える影響を理解し、将来の災害対策や支援策の構築に貢献することが期待される。 この研究は、退職に伴う消費の変動を理解し、高齢者の生活水準がどのように変化するかを明らかにすることで、政策的および学術的な意義があります。ライフサイクルモデルと行動経済学モデルを統合し、新たな理論的予測を提供することを目指す。
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