研究課題/領域番号 |
19K01730
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
室井 芳史 東北大学, 経済学研究科, 教授 (90448051)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 数理ファイナンス |
研究実績の概要 |
本年度はファイナンスにおいて古典的な離散モデルである2項分岐木モデルにおける新しいオプション価格評価法について考察を行った。特に、フーリエ変換を基礎にしたオプション価格計算の新しい数値計算法について研究を行った。数理ファイナンスにおいてこのような話題はCarr and Madan 公式の導出を含め過去に多くの研究がなされてきた。この手法自体が研究計画にあるレジーム・スィッチング・モデルにけるオプション価格評価においてよく用いられる手法でもある。レジーム・スィッチング・モデルの研究を行う中、離散モデルでもCarr and Madan 公式が導出できることに気が付き論文としてまとめることに成功した。本研究では、単純に離散Carr and Madan 公式を用いてオプション価格を評価したのみならず、ジャンプ拡散過程やレビ過程といったモデルにおいても本手法が有効であることを確かめることができた。さらに、グリークスと呼ばれるオプション価格の各種パラメータに関する感応度はオプション取引では重要なリスク指標であるが、本研究では、これらグリークスについても数値計算を行う手法を提案することができた。確かに特性関数が知られているモデルにおいては、その特性関数をCarr and Mandan 公式に適用することでオプション価格が既に導出できるのでそのようモデルにおいてこの成果の意味は限定的ではある。その一方で、本研究は将来の新しい研究への足掛かりとなる可能性を残した。本研究では特性関数自体も数値計算によって計算し、オプション価格を計算するという手順を取っている。よって、将来的にノンパラメトリックなジャンプ幅の分布を持つジャンプ拡散過程やノンパラメトリックなレビ測度を持つレビ過程などより複雑なモデルにおけるオプション価格評価への道筋を開いたと言え、将来に大きな可能性を残す研究成果となったと言える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
既に述べた通り、昨年度は2項分岐木モデルにおいてフーリエ変換を基礎にしたオプション価格計算の新しい数値計算法について研究を行った。この話題について一定の成果を得ることができたこと自体は満足な研究成果であったものと考えている。一方で、多くの時間を研究計画にあるレジーム・スィッチング・モデルの研究以外に費やしてしまったのは事実であり、課題達成という意味においては満足な状況であったとはいいがたいものと考えている。現在もフーリエ変換を基礎にしたオプション価格計算の研究は続いており、さらなる研究成果が期待されているが、その一方で、中心的な研究課題であるレジーム・スィッチング・モデルについても継続して研究・考察を行う必要性を感じている。今後は、これらの話題についてバランスを取りながら研究結果を出していけるよう引き続き努力をする必要性を強く感じている。
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今後の研究の推進方策 |
既に述べた離散Carr and Madan 公式型のオプション価格評価法の研究が完成し、現在は、離散コサイン変換をもとにしたオプション価格評価法の研究に軸足が移っている。離散コサイン変換は画像処理の分野でよく用いられる数値計算法であり、たとえばjpegファイルの設計などにおいてデータを圧縮する際に用いられる技術である。数理ファイナンスでは、連続時間モデルにおいてCOS法と呼ばれる手法が精力的に研究が行われ、2010年代以降は主要な数値計算法として認識されるようになった。この手法自体が離散コサイン変換を基礎としているため、離散モデルにおいても離散コサイン変換を用いたオプション価格評価が可能ではないかと考えるに至った。ファイナンスが信号処理や画像処理といった技術と深い関係を持つこと自体が興味ある話題ではあるが、COS法を用いたレジーム・スィッチング・モデルにおけるオプション価格の導出などもすでに先行研究がある。よって、漸近論とレジーム・スィッチング・モデルを合成したモデルにおいて同手法が役に立つことは明らかである。今後は、離散コサイン変換の理解を深めつつ、レジーム・スィッチング・モデルにおけるオプション価格評価の研究を活発化させていく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額12,123円は端数であり、計画と大きく食い違うものではないと理解している。
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