研究課題/領域番号 |
19K01737
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研究機関 | 東北学院大学 |
研究代表者 |
北村 智紀 東北学院大学, 経営学部, 教授 (80538041)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 公的年金 / 繰り下げ受給 / 税制メリット / 公的年金財政状態 / シミュレーション / 退職行動 / 情報提供 |
研究実績の概要 |
公的年金の繰下げ受給により、長寿リスクの低減が可能であることが理論的に知られている。しかし、現実にはそのような家計は多くなく、理論と現実の乖離が生じている。本研究は、この理論と現実の乖離要因を分析し、優遇政策や、それが有利であることがわかる情報提供のあり方により、乖離を縮小できるかを研究する。具体的には、(A) 公的年金の繰下げ受給の促進が年金財政状態に与える影響のシミュレーション分析、(B) 個票データを利用した家計の退職行動の分析、(C) アンケートを利用した優遇策や情報提供のあり方の検証、(D) 経済実験を用いて、優遇策・情報提供の現実への適用可能性の検証、(E) 政策提言を行い、望ましい老後保障制度のあり方を検証する。 当年度は、(A) 公的年金のシミュレーション分析を中心に研究を実施し、一部、(B) 個票データを利用した家計の退職行動の分析も実施した。公的年金のシミュレーション分析に関しては、厚生年金と基礎年金について、2016年度に実施された同制度の改正の内容を反映した公的年金の財政検証シミュレーション・システムを構築した。さらに、当該システムを利用して、厚生労働省が2014年度に発表した経済の前提条件と財政予測を基準にして、公的年金制度の将来の財政健全性について検証を実施した。分析結果について、専門家と議論を行い、研究成果のまとめを行った。公的年金の繰下げ受給の促進が年金財政状態に与える影響については、当システムを利用して予備的検証を実施した。また、(B) 個票データを利用した家計の退職行動の分析については、政府統計等を利用して予備的な検証を実施した。これらの結果を利用して、(C) アンケートを利用した優遇策や情報提供のあり方の検証について、仮説の設定や分析方法などの検証を行うための準備を実施した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2019年度に研究実施予定であった、(A) 公的年金の繰下げ受給の促進が年金財政状態に与える影響のシミュレーション分析については、当初、厚生労働省が2019年度に発表予定としていた経済の前提条件と財政予測を基準にして、公的年金の将来の財政状態の検証を実施する予定であった。しかし、発表が当初予測した時期よりも遅れたため、当シミュレーション・システムは、暫定的に厚生労働省が2014年度に発表した経済の前提条件と財政予測を基準にして公的年金の財政健全性の検証を実施した。その後、厚生労働省より2019年度の財政検証結果の発表があったため、当システムを新しい財政検証結果に対応できるように修正を行った。その際の修正に予想より時間がかかり、当初予定していた、公的年金の繰下げ受給の促進が年金財政状態に与える影響については、当システムを利用しての予備的検証となった。(B) 個票データを利用した家計の退職行動の分析に関しては、2019年度2~3月に研究協力者との打ち合わせや、海外で予定されていた国際学会にて分析結果について専門家と議論をする予定であった。しかし、新型コロナウイルス感染症拡大を受け、打ち合わせが延期、国際学会が中止になり、分析方法・結果等を議論する機会が少なくなったことで、研究の進捗に想定外の遅れが生じた。これらについては、新型コロナウイルス感染症が収束する段階で専門家との議論を進め、またオンラインでの学会報告等を活用していく予定である。
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今後の研究の推進方策 |
今年度以降の研究の推進方策は以下のとおりである。(A) 公的年金の繰下げ受給の促進が年金財政状態に与える影響のシミュレーション分析については、予備的検証の結果を精査し、公的年金の繰り下げ受給を考慮した本格的なシミュレーションを実施する予定である。(B) 個票データを利用した家計の退職行動の分析については、公的統計の利用申請等を行い、データ整備を進め、分析を実施する予定である。また、当初の研究計画に沿って、(C) アンケートを利用した優遇策や情報提供のあり方の検証、(D) 経済実験を用いて、優遇策・情報提供の現実への適用可能性を検証する予定である。なお、新型コロナウイルス感染症拡大防止の観点から、場合によっては出張の中止や人が集まる経済実験の延期が行われることが懸念される。そのため実施可能な研究範囲は、早めに実施することとし、(C) アンケートを利用した優遇策や情報提供のあり方の検証は3年目に予定していたが、研究の進捗状況を考慮しながら、2年目に実施予定とする。また4年目に予定している経済実験についても、早急に実施準備を進める予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由としては、(A) 公的年金の繰下げ受給の促進が年金財政状態に与える影響のシミュレーション分析について、当初、シミュレーション実施用PCとソフトウエアの購入費用を計上していた。しかし、予備段階のシミュレーション分析を研究協力者が保有するPCで実施したため、購入しなかった。今後、本格的シミュレーションでのPCへの負荷等について検証を行った後、他のテーマの研究の進捗にあわせて、PC及びソフトウエアを購入する予定である。(B) 個票データを利用した家計の退職行動の分析では、既に利用できるデータの範囲で研究を実施したため、データ整備費用等を計上していたが、利用しなかった。次年度以降、研究の進捗に応じて使用する予定である。また、国内外の学会や研究会を実施するために旅費等を計上していたが、新型コロナウイルス感染症の拡大防止対策のため、これらの学会、研究会が中止あるいは延期となった関係で、旅費等を使用しなかった。今後、同感染症の動向に注意を払いつつ、研究の進捗にあわせて、学会・研究会に参加する際に使用する予定である。
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