研究課題/領域番号 |
19K01740
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
豊福 建太 日本大学, 経済学部, 教授 (60401717)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 共通通貨 / 最適通貨圏 |
研究実績の概要 |
昨年度は、価値尺度の観点から共通通貨のメリットとデメリットを考察し、理論研究として論文の形にすることができた。まず、価値尺度が違う状況では、為替リスクがあることによって消費水準が平準化しなくなってしまうことを示した。次に、契約における価値尺度を共通通貨にすることによって、将来のpreference shockを回避することができ、消費水準が平準化されることを示した。この結論により、共通通貨のリスク分担機能を明らかにした。また、この結論を得る際に、共通通貨は内生的に生じるようになっている点も大きな特徴である。 ただし、既存債務がある際には、競争力の低い地域や国では、共通通貨を採用することでかえって負債の負担が増えてしまうことを明らかにした。それによって、既存債務に対する負債の負担と共通通貨による消費の平準化機能とのトレードオフによって、最適通貨圏が決定されることを示した。 以上の結論は、学術的には以下のような特徴がある。すなわち、これまで最適通貨圏は、労働移動や資本市場などに摩擦がなければ単一通貨圏を形成するのが望ましいと指摘されていたのに対し、本論文では、貨幣の価値尺度の観点から、今まで取り上げてこなかった共通通貨を採用することでの債務負担という負の側面を指摘し、そこから共通通貨を採用することのデメリットを導くことで最適通貨圏を導出したことである。また、この結論は、近年の欧州債務危機において、EU圏内において相対的に競争力の低い南ヨーロッパ諸国が相次いで債務危機に直面したことに対する理論的裏付けを与えるものである。 昨年は、以上の分析をまとめ、海外の学会や研究会などで発表を行い、海外学会誌への投稿まで進めることができた。今後は、査読プロセスを通じて、論文が公開できるようにしていきたいと考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度は、当初は理論モデルを構築するベースとなる分析ができればいいと考えていた。しかし、理論モデルの構築にあたっては、まず社会的厚生を最大にする資源配分を導出した。次に、地域間で独自の通貨を発行している状況を考えた。そして、別の地域の財を需要するときに相手地域の通貨を需要するところから為替リスクが発生し、その結果として次地域の通貨の価値が変動するリスクが生じ、消費水準が変動することを導いた。次に、共通通貨を価値尺度として考慮できる状況のもとでは、預金者も銀行も共通通貨を採用することが最適になることを示し、共通通貨が内生的に生じることを示した。最後に、既存債務を負っている状況を考え、既存債務が大きい地域でかつ競争力の弱い地域では、共通通貨圏に入ることによるメリットよりも債務負担のデメリットが上回るため、独自通貨を採用することが望ましいことを示した。これらの分析においては、数値分析なども行い、分析の頑健性も確認することができた。 また分析が完成してからは、国内、国外の研究会や学会などで発表する機会を得て、より分析を精緻化することができた。その過程では、より理論モデルをシンプルに構築すること、貨幣論としての学術的意義を説明しながら論文を執筆することなどを学び、論文の中でそれらを表現することができた。現在は海外学術雑誌に投稿中であり、公開できるように査読プロセスをしっかりと対応してきたいと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今回の研究では、共通通貨がもつリスク平準化機能を明らかにすることができた。今後はこの機能が共通通貨以外にも同様の機能があることを明かしていきたいと考えている。現在取り組んでいるのは、資産の同質化のメカニズムである。リーマンショック前の金融機関の資産構成は、各金融機関間で同質化して行ったことが指摘されている。それまでは各金融機関は、それぞれ独自にリスク分散したポートフォリオを組成していたが、危機の前になると資産が同質化していったというメカニズムを今後は解き明かしていきたいと考えている。具体的には、シンジケートローンや安全資産など、各金融機関が広く投資できるような資産を持つことで、各金融機関の間でポートフォリオの資産変動が同質化することによって、リスク共有をしていたことを示したい。そしてこうした金融機関の行動は、金融機関にとっては健全性をみたし、金融システムも維持されるものであるが、社会的には資金配分が偏るために預金者や消費者にとっては財のバラエティが小さくなってしまうために非効率であり、社会全体で見るとこうした金融機関の行動は効率性を低下させることを示す。 この分析では、金融機関や金融システムが健全であるということが、社会的に見ると効率的なものとは言えないということを示すものであり、金融システムと実体経済との関係に対しての既存の学術研究に対して有益な政策的含意を導出する研究であると考える。
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次年度使用額が生じた理由 |
3月にWestern Economic Association Internationalにおいて学会発表をする予定で、論文の採択も受けていた。そのため学会報告のための予算を残していたが、新型コロナウイルス感染症の影響により上海で開催される予定だった学会が中止になってしまい、その分の予算が残ってしまった。今後は、新型コロナウィルス感染症の影響が軽減すれば、海外学会での論文発表などを行っていきたい。またオンラインでの作業が増えているため、より高速での作業が可能になるパソコンの購入も検討している。
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