研究課題/領域番号 |
19K01742
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研究機関 | 明治学院大学 |
研究代表者 |
佐々木 百合 (長瀧百合) 明治学院大学, 経済学部, 教授 (10272767)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 貸出 / 都市銀行 / 地方銀行 / 金融政策 / 量的緩和政策 / 量的質的緩和政策 / 過剰準備 / 国債 |
研究実績の概要 |
2019年度は、まず、バランスシート分析を行った。全国銀行協会が出しているバランスシートの業態別の平均値を使い、様々な角度から比較した。そこでは、都市銀行の貸出収益をある時期から債券からの収益が上回っていることが確認された。これにより都市銀行は、貸し出しを増やすインセンティブが低いことが考えられたので、それ以降は、都市銀行と地方銀行の違いを見ながらすすめることにした。調べてみると、都市銀行の貸出平均約定金利は地方銀行よりも低い。これは都市銀行のほうが優良な貸出先が多いため、リスクプレミアムが小さいからと考えられる。このため、都市銀行の方が地方銀行よりも早い時期に貸出へのインセンティブを失っている。2013年からの量的質的金融緩和では、地方銀行の貸出は伸びているものの、都市銀行の貸出は伸びていない。これはこの時期に、都市銀行は貸出のインセンティブがなかったからだと考えられる。 次に、個別行のデータを収集した。個別行のデータを使って、量的緩和政策によって大量の資金が供給されるなか、貸し出しがその影響を受けて増えているかどうかという分析を行うことにした。データをすべてプロットして確認してみると、外れ値と思われるものがいくつか出てきた。それらについて詳細を調べるとほとんど合併をするなどの大きな変化に伴うものであったので、それらを除いたり、合併銀行のデータ処理を行った。 最後に、個別行のデータで実証研究を行い、金融政策の与える効果を確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は主に、論文のサーベイ、データの収集と確認、データを用いた計算、を行い、その成果をまとめ始めるところまでを行った。 論文のサーベイは、まず、本研究に近い日本の銀行に関する論文を探した。特に過剰準備が貸出に与える影響を分析したものについて詳しく調べた。次に、主にアメリカ、欧州における類似研究を探した。アメリカ、欧州でも量的緩和政策をとっており、類似した論文がみつかった。 データは、初めに全銀協の業態別の集計値を集めて調べた。様々な変数を調べていくうちにいくつかの重要な動きが確認できた。そのうち特に重要なのは、都市銀行と地方銀行の間で行動が異なるということだった。特に、量的緩和政策が行われた2001年~2006年の間について調べると、都市銀行はむしろ国債を購入しており、地方銀行は国債を売却している、というようにまったく異なる行動をしていることがわかった。また、2013年からの量的質的金融緩和時期に、地銀の貸出はのびているのに、都市銀行の貸出は伸びていないということがわかった。 データを利用して、実証分析を行った。左辺に貸し出しを置いて、右辺には、国債や、不良債権、などの変数を入れ、量的緩和、量的質的緩和期には都市銀行、地方銀行の行動がどう異なるかを調べた。
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今後の研究の推進方策 |
まず、ここまでに行ったことをドラフトにまとめて、学会や研究会で発表して修正し、雑誌に投稿する予定である。具体的には、まず、ここまでに行った、サーベイとデータ分析、統計的分析をまず、プレゼンテーションファイルにまとめる。調べたものでも必要ないことなどを削除していく。そのうえで、それらをつなげて、論文のドラフトを作成する。 また、新型コロナウィルス感染症の蔓延により、学会が中止に追い込まれたところもあったが、最近ではオンラインで開催する例も増えている。それらを利用して様々な発表してドラフトを修正していく予定である。 一方で、ここまでは理論モデルの構築ができなかったので、今後はそこも進める予定である。従来型の部分均衡モデルでの説明に加えて、DSGEモデルを用いて説明ができるようにする予定である。従来の金融機関を含める形のDSGEモデルで、貸出行動を如何に説明できるようにするかが課題となる。
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次年度使用額が生じた理由 |
初年度であったため、本格的なデータ処理などが必要になるところまでいかなかったため。
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