研究課題/領域番号 |
19K01746
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
猪口 真大 立命館大学, 経営学部, 教授 (60387991)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 資本フロー / 国内金融システム / グローバル・ショック / 金融危機 / 新興国 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は新興国各国における国際資本フローの要因がどのように変わってきたのかを明らかにすることである。1990年代に通貨危機を経験した新興国を対象に、危機後の経済・金融システム改革の結果、対外要因の資本フローへの影響がどのように変わったのか、さらに、国際的な危機前後のような資本フローのボラティリティが大きい期間とそれ以外の期間とで資本フローの要因が異なるのかを分析する。 2019年度は主に、新興国各国の資本フローのデータを探すとともに、実証分析で用いる推定方法について検討を行った。資本フロー・データについては、先行研究においては通常四半期データが用いられ、本研究でも同様のデータを使う計画であった。しかし、ファンドのフロー・データをもとに各国の月次の資本フロー・データを提供するデータベースが存在することが分かったため、当該データの購入と使用について交渉を行った。なお、元データの性質上、資本フローをすべてカバーした完全なデータではないことから、従来のグロスの四半期データも合わせて使用する計画である。 推定方法に関しては、各要因による回帰分析の前に、資本フローを共通要因により発生したフローと個別要因により発生したフローに区別する手法を用いた先行研究を確認した。これは当初予定していた分析方法とは異なるものの興味深い計量的な手法であるため、採用すべきか検討を行った。 なお、本研究の予備的な分析として、世界各国のグロスの資本流入と資本流出の要因について考察した論文を完成させた。具体的には、直接投資、ポートフォリオ投資、その他投資のそれぞれの資本流入と資本流出の要因が、先進国と新興国で異なるのか、世界金融危機前後で違いがあるのかをパネル分析を用いて明らかにした。なお、この論文は2019年度に財務省総合政策研究所の発行するPublic Policy Reviewに掲載された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2019年度は、主にデータの所在や先行研究の確認が研究の主な作業となった。データについては、資本フローの分析で通常用いられる四半期データを入手するのは比較的容易であるが、本研究では月次データも2020年度初めに得られる予定である。本研究と関連する多くの先行研究のサーベイについてもおおよそ終了した。 当初の計画では、データを実際に取得してサンプル国の確定し、それらの国の経済状況・金融システム等の変遷について調査を行う予定であった。このようにやや計画が遅れている原因は次の2点によるものである。第一に英国ブルネル大学の2名の研究者との同様のテーマについて共同研究を行う計画が持ち上がったこと、第二に当初の予想を超えた多様な関連研究が存在したことである。 まず、本計画と同じ問題意識をもっていた2名の研究者と資本フロー要因についての共同研究を行うこととなり、議論を開始した。このため、本研究をどのように進めるかについてはその議論の内容を考慮する必要が生じた。さらに、2019年度後半においては新型コロナウィルスの影響で、共同研究を進めるための議論や相談が難しい状況となってしまった。これらの結果、本研究の進捗が遅れることとなった。 次に、関連する先行研究のサーベイに計画よりも多くの時間を費やした。これは、研究開始前に想定していた以上に様々な実証研究が存在したためである。例えば、資本フローを共通要因により発生した資本フローと個別要因により発生した資本フローに分けてフロー要因を考察した先行研究があり、計量的な手法についての関連論文の確認を行った。こうした作業により研究の遂行がやや遅れることとなった。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度以降は、まず資本フローをはじめとした実証分析で用いるデータを完全に入手し、データセットを構築する予定である。資本フローのデータについては、月次フローのデータを主に使用し、四半期のグロス・インフローについても補完的に用いる。資本フローの種類は、四半期データについては株式と債券もしくはポートフォリオ投資、月次データについては株式投資のデータの使用を予定している。その他のデータの収集に関連して、グローバル要因と各国の個別要因に関する変数を決定する。グローバル変数については、VIX、コモディティプライス、先進国利子率、先進国の成長率を想定している。また、各国の個別要因については、資本の開放度、金融システムの質に関する変数の使用を計画している。さらにサンプル国の確定し、各国の金融システム改革、これまでの危機やグローバルな市場変動の影響について調査を行い、実証分析の際に利用する。 本研究では、1997年のアジア危機および2008年の世界金融危機を中心に、新興国の資本フローに大きな変動が生じた期間およびその前後の期間における資本フロー要因を考察するが、各国の個別要因特に国内金融システムの質に注目をして分析を行う。推定方法については、パネルデータを用いて、新興国各国の資本フローに対してグローバル要因と個別要因の変数で回帰分析を行う計画である。その際、Fratzscher (2012)の用いたfactor modelの方法を採用する予定である。これに加えて、Byrne and Fiess (2016)が使用した手法、すなわち資本フローの変数自体を共通要因と個別要因に分けてフロー要因を検証することも本研究で追加的に用いるかどうかを検討している。
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次年度使用額が生じた理由 |
2019年度の当初の計画では、実証分析で使用するデータを実際に取得し、サンプル国の確定およびそれらの国の経済・金融システム等の調査を行う予定であった。しかし、計画が遅れたこともあり、データの取得を2020年に行うことが次年度使用額の生じた主な理由である。 具体的には、2019年度に行った先行研究のサーベイから計画当初の予想を超える多様な関連研究が存在することが分かったが、この過程で月次の資本フロー・データの存在が明らかになった。通常は四半期データであるため、月次データは実証分析を行う上で有用である。そのため、当該データがどのように集計されているか、どのようなカバレッジを持つのかなど詳細に確認した。その上で、データベース購入に関する交渉を業者と行った。 この結果、2020年度の初めに月次の資本フロー・データを取得する予定であるが、当該データが高額であるため2019年度から繰り越した研究費と2020年度の研究費の一部を使用する計画である。さらに、大きな額の予算の用途として、2020年度は各国の経済変数を収録したデータも別に購入する予定である。これらのデータを用いてデータセットを作成し、実証分析を行う。
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