本研究は、新興国の国際資本フロー要因に関する分析であるが、次の点に焦点を当てて考察している。第一に、過去の国際的な金融危機とそれ以外の期間におけるフロー要因の違いであり、第二に、各国のインスティテューションの質が、グローバル要因の資本フローへの影響にどのようなインパクトを与えているのかである。2022年度は、学会報告で得たコメントを参考に分析を改善するとともに、論文の執筆を進めた。 推定では、ファクター・モデルを使い、資本フローの変動要因が危機時に異なるのか、グローバル要因がフローに与える影響がインスティテューション・リスクによって、また、国内経済システムの違いによって変化するのかを明らかにした。被説明変数はファンドベースのエクイティ・インフローの月次データを用いた。国際的な金融危機は、アジア危機、アルゼンチン危機、世界金融危機、欧州ソブリン危機、(米国金融政策変更に伴う)テーパー・タントラムを採用した。各国のインスティテューション・リスク変数は、政治および金融システムのリスク・スコアを用いた。さらに、国内システム変数として為替相場制度の指数と資本移動の開放度指数を使用した。グローバル要因は、米国の鉱工業生産指数、FFレート、VIXに関する変数を採用した。 結果から、金融システム・リスクの高い国では、金融市場の不確実性の高まりを示すVIXの変化のエクイティ・インフローへの影響が大きくなり、また、世界金融危機以降の危機時においてFFレートの変化の(インフローへの)影響が大きくなったことが示された。政治リスクについては、リスク水準が一定水準を超える国において、一部のグローバル要因のインフローへの影響が政治リスクの高まりとともに大きくなることが分かった。新興国にとって、金融システムの健全性を高めること、および、政治リスクを一定水準以下にすることが重要であることが示唆される。
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