大規模な金融危機に見舞われた近年において、公的資金注入や国際間における金融支援の在り方、情報開示の是非、金融機関に対する規律付けなどに関して望ましい政策が切望されている。しかしながら、それらに関する研究蓄積は十分ではなく、既存の理論モデルの現実的整合性も不明な点が多々ある。本研究では、公的債務危機、預金取り付け、通貨危機といった金融危機がどのようにして発生し、さらに、それらの危機がいかに深刻化するかについて理論的および実証的に分析する。また、情報構造や規律、資金援助がそれらの金融危機において果たす役割を探り、政策含意を導出する。 今年度はそれらの課題のうち情報構造と規律に着目し、銀行の行動が情報構造にどのような影響を及ぼすのかを分析した。先行研究では、短期負債が銀行を規律づけるということが定説である。銀行が要求払い預金あるいは短期負債といった形で借り入れを行うと、ひとたび銀行経営者が債権者の意に反する行動をとると銀行から預金が引き出される。これを危惧する銀行経営者は債権者の利益にかなった行動をとろうとする。しかしながら、本研究によると銀行経営者の行動は預金者の持つ情報や銀行以外の金融市場における投資家の持つ情報に依存し、情報構造によっては規律付けがはたらかない可能性が見いだされた。
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