研究課題/領域番号 |
19K01761
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
首藤 惠 早稲田大学, 商学学術院(経営管理研究科), 名誉教授 (10206568)
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研究分担者 |
竹原 均 早稲田大学, 商学学術院(経営管理研究科), 教授 (70261782)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | CSR / innovation / investor trust / signaling / management forecasts / idiosyncratic risk / market-based risk |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、長期持続的成長の視点からCSR活動と研究開発戦略の関係性に注目し、 企業に対する投資家の信頼構築が資本市場を通じて、研究開発力の向上の決定要因となるかを分析することである。2019年度は、以下の2つの研究テーマについて分析し、それぞれ学会報告を行った。 (1)Management Earnings Forecasts and Investor Trust: Signaling Effect of Corporate Social Responsibility:長期視点に立ったステークホルダー関係構築は、企業価値向上のための戦略的CSRの基盤である。本研究は、CSR活動が企業に対する信頼(trust) のシグナルとして機能し、短期的な経営者予想情報開示の歪みを是正するかを分析し、CSR活動は財務情報開示の質を向上させるという結果を得た。(2)Innovation, CSR Intensity, and Market-based Risk: Evidence from Japan:CSRと研究開発(R&D)は、長期競争力を通じて企業の持続的成長を支える決定要因である。本研究は、CSR集約度はイノベーションと企業リスクとの関係に影響を与えるmoderatorとして機能し、技術革新に伴うリスクを軽減する効果を検出した。 研究(1)は、研究課題の5つの実証課題のうち、③CSRと技術開発をつなぐがチャネルあるいはメカニズム、④CSRに企業特性・産業特性・ガバナンス構造が与える影響、⑤市場環境変化や制度的変化が、CSRと技術開発の関連に与える影響に応える分析の一部である。研究(2)は、研究(1)の成果を踏まえて、①技術競争力が高い企業におけるCSRと研究開発投資との関連、②CSRは信頼形成を通じて市場リスクを軽減し研究開発を支える機能に応える分析の一部である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
いずれの研究も、学会等での質疑応答を踏まえて分析視点を明確にし、分析方法と推計方法を再検討して再推計を行い、論文として再構成した。 研究(1)に関しては、investor trustとCSR intensityとの理論的関連に関する説明を拡充し経営者行動との関連を明確にし、CSRと経営者予想の正確性との間の双方向性を明示的に配慮して推計方法の改善を行った。再構成した論文は、現在、投稿中である。 研究(2)に関しては、CSRが企業固有の無形資産である技術開発力に及ぼす影響を明確にするために、リスク指標を企業固有リスク(idiosyncratic risk)に絞り、かつ、CSRと投資パフォーマンスの相互関連性(内生性)に対処するために推計方法を全面的に精緻化した。さらに CSRがリスクと技術革新の関係に与える影響(moderator effect)に関してSimple slope analysisを用いた確認作業を行うなど、全面的が分析枠組みの見直しを行い、新たな論文として再構築した。2020年6月14日日本ファイナンス学会で報告予定である。
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今後の研究の推進方策 |
企業の技術革新能力の中核は、内部ステークホルダーである従業員の革新に対する取り組みである。2020年度は、CSR が従業員の仕事への意欲(motivation)に与える影響に注目し、技術競争力が高い企業におけるCSRと研究開発投資との関連(実証課題①)、CSRと技術開発をつなぐがチャネルあるいはメカニズム(実証課題③)について、新たな視点から分析する。具体的には、employee-oriented CSRがもたらす非金銭的報酬(non-pecuniary rewards)を従業員の内生的満足(intrinsic motivation)の代理変数とし、CSR戦略が従業員の創造的な仕事への取組みを通じて企業の革新力と市場価値評価にどのような影響を与えるかを分析する。 employee-oriented CSR(人的能力開発、機会均等、ワークライフ・バランス、職場環境)の高さを非金銭的報酬と定義し、企業の技術革新力および長期パフォーマンスと市場評価との関連を分析する。その際、従業員に対する金銭的報酬 (pecuniary rewards)、雇用制度、社会的評判がその関係の及ぼす影響をコントロールする。現在、分析の理論的枠組みの構築とemployee-oriented CSR指標構築の作業を終え、検証モデル構築と検証作業に進んでいる。
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次年度使用額が生じた理由 |
資料整理など人件費が不要であったため、87008円の残余金が生じた。次年度は、東洋経済新報社CSRデータ(2019-2020年分)の購入額の一部に充てる予定。
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