研究課題/領域番号 |
19K01775
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研究機関 | 横浜国立大学 |
研究代表者 |
石山 幸彦 横浜国立大学, 大学院国際社会科学研究院, 教授 (90251735)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 石炭 / ヨーロッパ石炭鉄鋼共同体 / フランス政府 / カルテル規制 / 共同市場 / 自由競争 |
研究実績の概要 |
1952年に結成されたヨーロッパ石炭鉄鋼共同体(ECSC)はその結成条約で石炭と鉄鋼に関して貿易の数量制限や関税のない自由貿易市場を開設することになっていた。さらに、カルテルなどの独占も排除した自由競争市場の確立を目指していたのである。そこで、2019年度の本研究では、1953年にECSCにより共同市場が開設されてからローマ条約によってEECやヨーロッパ原子力共同体が設立される1958年までについて、フランスの石炭輸入市場において、いかに自由共同が導入されたのかを検証した。その結果、本研究で明らかにしたのは、以下の点である。 フランス政府は戦後石炭を安定調達するために、石炭輸入業者が加盟し、事実上政府が管理する石炭輸入技術協会(ATIC)に独占的に輸入させていた。それは、戦後不足していた石炭をドイツなどから輸入するにあたって、国外の大規模な石炭販売会社に対抗し、より有利な価格や条件で輸入するためであった。すなわち、フランスの中小規模の輸入業者が結集して、共同購入機関としてのATICがフランスの石炭輸入を一手に独占していたのである。第1次経済計画が終了し戦後の経済成長を開始したフランスでは、上記の石炭御輸入システムが当時もっとも重要なエネルギーである石炭調達を支えており、経済成長の基盤となっていた。 こうした状況から、ATICによる輸入独占を排除したいECSCとその維持を主張するフランス政府と交渉が行われた。だが、両者の対立は根深く、ECSCによるATICへの規制措置に対し、フランス政府は1956年と1958年の2度にわたって共同体裁判所に提訴する事態にいたったのである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2019年度の研究では、まず戦後から1957年までの第1次経済計画と第2次経済計画におけるフランス石炭産業の生産と同国の石炭調達の状況を確認した。それを踏まえて、フランスの石炭市場、なかでも石炭輸入システムに、ヨーロッパ石炭鉄鋼共同体が目指す自由競争の導入(=カルテルなどの独占の排除)がいかに実施されたのか。フランス政府が管理する同国の石炭輸入技術協会による石炭輸入への介入とどのように調整されたのかを検討した。それによって、共同体とフランス政府は激しく対立し、1956年と1958年の2度にわたって、共同体の裁判所における係争にまで及ぶことになった。すなわち、共同体による自由競争の導入とフランス政府が推進する経済計画(=政府の市場介入)による経済成長との矛盾が、EECなどが創設される1958年の時点で、共同体とフランスの対立関係を決定的にしていたことを解明した。この点は本研究全体の重要テーマの一つであり、これを明らかにしたことは、2019年度の研究がおおむね順調に進展していることを示している。
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今後の研究の推進方策 |
2019年度までの成果を踏まえて、2020年度にはまず、フランスにおける第2次経済計画(1954‐1957年)とそれ以降の経済計画の立案、進行を分析し、この時期のフランスの石炭生産と国外からの石炭調達状況を明らかにする。1950年代末には主要なエネルギー源の石炭から石油への転換が顕著になり、技術的な発展による燃料の節約も進み、石炭の需要は減少することになる。その結果、フランスを含むヨーロッパの石炭産業は、いわゆる「石炭危機」と呼ばれる危機的な状況に1960年代を通じて見舞われることになる。戦後の石炭不足の時代から石炭の過剰が顕著となる状況転換に、フランス政府や石炭産業はどう対応したのかを明らかにする。その後、2021年度にはこの時期の石炭鉄鋼共同体の石炭関連政策を検討し、共同体として1950年代末から1960年代の石炭危機にどのように対処したのかを明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
2019年秋の台風の襲来や2020年春の新型コロナウイルス感染拡大の懸念から、計画されていた学会が中止または延期となり、旅費などが当初の予定よりも使用額が少なかったために、次年度使用額が生じた。 次年度も新型コロナウイルスの世界的蔓延の影響が予想され、旅費などの使用額は抑制せざるを得ないと考えられる。資料等の物品費での使用を計画している。
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