研究課題/領域番号 |
19K01775
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研究機関 | 横浜国立大学 |
研究代表者 |
石山 幸彦 横浜国立大学, 大学院国際社会科学研究院, 教授 (90251735)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | エネルギー産業 / 石炭 / フランス石炭公社 / フランス電力 / 経済計画 / 国有企業 |
研究実績の概要 |
2020年度には、フランス政府が実施した1954年から1957年までの第2次設備近代化計画とそれに続く1958年から1961年までの第3次設備近代化計画における石炭、電力などエネルギー産業の近代化に関する資料の調査、分析を行った。それによって、第2次計画においてはエネルギー産業は以下のような成果と問題点を招いたことを解明し、第3次計画についてはその実施状況に関する分析、評価を行っている。 フランスの国有炭鉱会社9社やフランス電力は第1次計画から継続している設備投資によって設備の近代化、生産性の向上を実現していた。石炭産業については、1953年に開設されたヨーロッパ石炭鉄鋼共同体の石炭共同市場において、西ドイツなど共同体加盟諸国との競争に対応するために、これら諸国の炭鉱に劣らない生産性を実現した。だが、そのためには設備投資を高い生産性実現が見込まれる優良炭鉱に集中し、生産性の低い炭鉱は生産の縮小や閉鎖を断行した。そのため、生産量の拡大は経済成長に伴う需要の拡大に比べて緩やかであり、石炭消費の一定割合は輸入に依存することが必要であった。したがって、フランス電力も輸入炭への一定程度の依存が避けられず、1956年から1957年に需要が急増した際には、西ドイツなど共同体諸国に加えて、アメリカからの石炭輸入を拡大することになった。 こうした状況は、経済計画を実施して経済成長を実現するうえで、政府による石炭輸入の管理システム、すなわち石炭輸入技術協会(ATIC)による石炭の輸入独占が必要であると同政府が判断する根拠となっていた。ただし、フランスの国有炭鉱会社やフランス電力にとっては石炭価格や電力料金が抑制され、多額の設備投資への支出と賃金の上昇によって、経営の赤字体質はより深刻化していた。それは政府の財政負担の拡大も招いたのである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2020年度の研究では、2019年度の研究成果を踏まえて、石炭や電力などのフランス政府によって戦後に国有化されたエネルギー産業の第2次近代化設備計画(1954-1957年)から第3次近代化設備計画(1958-1961年)の立案と実施に関する資料の調査、分析を行った。 その結果として、第2次計画については石炭産業を中心にエネルギー産業が実現した設備の近代化や生産性の向上について解明した。だが、石炭調達の輸入依存は継続されて、経済計画を遂行する上で、政府による石炭輸入の管理が必要であるとの政府の認識も変わることはなかった。また、設備投資のための膨大な支出や人材確保のための賃金の引き上げにもかかわらず、石炭価格や電力料金の引き上げが抑制されたため、国有炭鉱会社9社やフランス電力の赤字体質は改善するどころか深刻化していたことなども明らかにした。 以上の成果は、部分的には2020年10月に学会で報告し、同年11月に論文で発表しており、全体については近日中に論文として発表する予定である。第3次計画についても立案と実施の実態を明らかにし、発表する予定である。以上ののような進捗状況から、本研究はおおむね順調に進展していると判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度までには、終戦から第2次近代化設備計画(1954-1957年)までの石炭を中心に、フランスにおけるエネルギー産業の近代化について解明した。さらに、同国エネルギー産業のヨーロッパ石炭鉄鋼共同体における石炭共同市場開設(1953年)への対応も、1958年までについて明らかにした。したがって、今後は第3次近代化設備計画(1958-1961年)以降の石炭を中心にフランスのエネルギー産業の発展をヨーロッパ石炭鉄鋼共同体やヨーロッパ経済共同体(EEC)との関連にも注目しながら検討する。 1950年代末には主要なエネルギー源の石炭から石油への転換が鮮明になり、技術進歩によるエネルギーの節約も進み、石炭需要の低下することになる。その結果、ヨーロッパの石炭産業は過剰在庫を抱えて、いわゆる{石炭危機}に直面することになる。それまでの石炭不足から石炭の過剰が顕著となる状況の変化に、フランス政府、石炭産業やヨーロッパの諸共同体はどのように対応するのかを解明する。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルスの感染拡大のために、フランスへの資料調査が不可能になったこと、学会等の開催がリモート開催になって旅費が必要なくなったことなどにより、計画していた旅費の支出が大幅に減少した。その分国内でも入手可能な資料の購入に研究費を充てたが、次年度使用額が生じることとなった。2021年度についても旅費の支出は少額にとどまることが予想されるため、図書資料など物品費を中心に支出する予定である。
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