新型コロナウイルス感染症対策下における補助事業期間の延長となった今年度は,助成金の残額が限られていたため,東京都公文書館を訪問し,「明治元辰年 相対貸家蔵留帳」上下を閲覧・複写するに留まっている。ただし,同史料は,開港後の築地外国人居留地における欧米外国人の建家・建蔵の賃貸状況を,地積・家主・国籍・氏名・期間・家賃別に網羅して記録された大変貴重な史料であり,築地居留地に関する先行研究の概説史的到達点といわれる川崎晴朗[2002]『築地外国人居留地』,雄松堂出版を,数量的・実証的に発展させる内容だといえる。 現時点においては,この史料のデータベースを作成している段階にあるが,分析の終了後は,開港直後の築地外国人居留地における土地市場・不動産経営の特徴を見出し,既に公刊されている拙稿の徳川時代における築地3町(上柳原町・南飯田町・南本郷町)の土地賃貸・抵当市場史研究との接続を図っていきたい。 また,最終年度として,本研究のここに至るまでの成果を,三菱経済研究所発行の『経済の進路』第721~726号(2022年4月~同年9月)の連載コラム「千思万考 築地から見える都市経済史」として執筆した。本連載は,築地を例に挙げて都市経済の歴史を語ったものであり,海の中にあった築地が造成された背景,築地3町の土地台帳類が残存した経緯とその希少性,その土地台帳を分析した結果の土地価格の推移と度重なる町屋敷の売買状況,それほど高利ではなかった土地抵当利子率,「持込家質」という土地抵当方法と今日の「住宅ローン」との共通性,武家の町屋敷所有状況,幕末開港~明治期の居留地時代における築地・明石町の都市経済史的特色を,通時的に著した。 コロナ禍で研究計画どおりの史料収集ができなかった面もあったが,制約下の中でできる範囲の研究は実行できたといえる。
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