令和5(2023)年度の研究成果として、①社会経済史学会 第92回全国大会報告「データからみた15世紀の京都の利子率と金融動向」、②貨幣史研究会2023年度6月例会報告「中世の利子制限法と制限利子に関する通時的覚書」、③東北アジア文化学会2023年度 春季聯合国際学術大会報告「日本中世の金融の実態について」の3つの口頭報告がある。 ①では、15世紀の京都の1年刻みの銭の利子率データから、徳政令、戦乱によって、利子率が上昇していることを明らかにした。このデータによって、戦乱や徳政令が市中の利子率の変動に影響していることが実証され、利子率上昇の要因の一つが、金融業者の経営悪化、資金供給の逼迫など、資金の需給に関係している可能性が示された。そのほか、銭の利子率が米価と連動している可能性が示された。 ②では、古代・中世の利子制限法と制限利子について通時的な整理と検証を行った。これにより、令制下(養老令・雑令)の利子を元本と同額(一倍)、または半額(半倍)までに制限する規定が、その後も長く影響していたこと。また、中世の米銭の借用状類では、米では把利(和利・割)による制限利子、銭では文子などの月利での利子率表示が一般的になっており、そうした別個の考え方による利子表示、制限利子の併用が、戦国末期まで存続したことを明らかにした。 ③では、中世の金融財、利子率、貸借期間、担保などの推移データを四半世紀刻みで俯瞰的に分析し、これによって、中世の金融動向の概観を押さえることができた。 以上によって、13~16世紀前半までの利子率変動などの金融の実態については一定の見通しを得た。また、利子制限法についても、上の②によって通覧できるようになった。これらにより、研究課題である、利子率、担保、貸借期間などの金融の実態と法について、13~16世紀を通じた見通しを得ることができた。
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