研究課題/領域番号 |
19K01784
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研究機関 | 獨協大学 |
研究代表者 |
市原 博 獨協大学, 経済学部, 教授 (30168322)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 学歴身分制度 / 教育資格 / 企業内教育 / 能力主義人事管理 / 職長・熟練工 / 造船業 / 三菱重工業 / 海軍工廠 |
研究実績の概要 |
今年度は、コロナ禍に伴い資料調査が困難であったという制約があったが、これまでの資料収集の成果を踏まえて、主に、全造船三菱支部資料と同横浜支部資料の分析に注力し、長崎造船所を中心に三菱造船・三菱重工業の戦後期の人事制度の運用分析を進めた。その結果、義務教育卒の工員にも管理職=課長への昇進の道を開いた改革と通常は認識されている1969年に実施された職能資格制度を採用した人事制度改革以後、同社では、年功的な処遇改善の性格を強めて広く実施されていた工員から職員への登用が行われなくなり、業務遂行上必要な職能変更に限定されるようになった結果、その規模がむしろ縮小したことが明らかになった。こうした事態の背景には、ブロック建造法の導入と生産設計の採用により、職長・熟練工の職務に対する技術者の統制が強まり、船舶建造作業における職長・熟練工の役割が縮小したことが考えられること、技術者の統制力の強化を支えたのが、彼らのキャリア分析から明かになった職能的専門性の強さであったことも論じた。 同社の戦前期の人事制度と、海軍工廠の人事制度の運用についても、それぞれ、職員録や採用履歴書を活用して構築したキャリアデータベースの分析を進め、下位の教育資格保有者が技術的に積極的な役割を果たし、上級の技術職員まで昇格する動きが存在したことを確認し、「学歴身分制度」の下でも学歴を超えた従業員の昇格・登用が存在したという従来からの主張を補強することが出来た。 これらの研究成果は、これまでの研究成果と合わせて、本年度中に単行書にまとめて出版する予定である。 また、国際比較として、オーストラリアの労働市場の歴史に関する文献研究を行い、「日本的雇用制度」に類似する人事管理の運用が19世紀末以降の同国において行われていたことを論じ、日本の人事管理の特徴と理解されてきた内容を相対化した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
コロナ禍による資料調査の困難化により、前年度に研究の進捗状況に遅れが生じてしまったが、今年度になり、資料調査が少しは行なえるようになった。その調査により入手できた資料とこれまでに収集していた資料の分析を進め、研究成果として発表できる段階まで仕上げることが出来た。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度に行った戦後の三菱重工の人事制度の分析は、本年度に補足的分析を行った戦前期の三菱造船、海軍工廠の研究、それに、これまで行ってきた日立製作所、三菱電機、芝浦製作所の研究と合わせて、2022年度中に単行書に纏めて出版する計画である。それに必要な補足的な資料収集と分析を行う。 本科研費プロジェクトで着手し、資料収集を進めながら、未だまとめる段階に到達していないテーマ、具体的には、日立製作所の戦後の制御コンピュータ事業進出過程での技術者の職務内容と能力開発と教育資格との関係についての分析を進める。本テーマは、2019年の経営史学会Fuji Conferenceで報告した後、他のテーマを優先したため、進められずに来た。この事業に携わられた技術者の方のご協力も得られる見通しなので、更なる資料収集を進め、2022年度中に何らかの形にしたい。 また、資料収集を続けてきた炭鉱・鉱山企業に関して、資料的な目途が立ちつつある三井鉱山の炭鉱事業と同和鉱業の小坂鉱山の人事制度史の分析に取りかかる。できるだけ早く研究成果を発表できるように集中して取り組む所存である。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年度よりコロナ禍のため予定していた資料収集ができなくなり、2021年度には一部の資料収集を再開できたが、未だ、予定した資料すべてについて実施できておらず、2022年度に延期して実施する必要が生じたため。また、予定していたインタビュー調査も同じ理由から実施できてこなかったので、2022年度に実施する予定である。
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