研究実績の概要 |
内部労働市場をめぐる議論は、日本とアメリカとを問わず、理論的な分析が進んできた一方、内部データに基づく実証分析が乏しく、特に内部労働市場の形成を分析するにあたり必須であるはずの長期データを用いた実証研究は手薄である。こうした研究上の課題を克服するため研究代表者の大島と研究分担者の中林は2011年より戦前を代表する商社の特別職員録のデータを用いた共同研究を組織してきた。そこでは、同社の職員に関する給与、職名、役名、出身校、卒業年等に関する92,000件におよぶデータをパネル化した経験を持つ。本研究ではその知見とノウハウを生かして、1910年代から1960年代という長期のホワイトカラーのパネルデータを構築する。具体的には本研究で、新たに戦後に主要な海運会社の陸上職員(船員を除く)の「特別職員録」の約10,000件のデータをパネル化する。特別職員録には「部署」「役名」「氏名」「生年月日」「入社年」「学歴(卒業年月を含む)」「本給(年令給と能力給に区分)」「勤務手当」「資格手当」の各データが記載されており、本研究組織が初めて用いるデータである。同データの元となる組織は、先にデータ化した大手商社の内部組織にその系譜を持つ。その結果、1910年代から1960年代という長期の個票分析を行うことが可能となり、わが国における内部労働市場の起源とその特徴を析出することができる。また、新たにデータ化する個票には女性労働者に関する情報も含まれており、戦後にかけて事務系労働力として編入された女性一般職も含めた戦後労働力編成の全体像を構築する。
|