研究課題/領域番号 |
19K01789
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研究機関 | 法政大学 |
研究代表者 |
榎 一江 法政大学, 大原社会問題研究所, 教授 (90466813)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 寄宿舎制度 / 1968年 / 製糸業 / 女性労働 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、富岡製糸場の115年におよぶ女性労働の歴史を通時的に分析することによって、日本の製糸労働史をグローバル・レイバーヒストリーに位置付ける点にある。本年度は、寄宿舎制度に焦点をあて、近年発見された「寮管理日誌」の分析を行った。 官営富岡製糸場は1872年の開業時に寄宿舎を用意したが、これは,日本における近代的な工場附属寄宿舎の嚆矢とされる。この寄宿舎は増築・新築されながら利用され続け、第二次世界大戦後にも寄宿舎制度が存続した。この長い歴史を持つ工場寄宿舎での生活を再構成する試みの一つとして、1968年の寄宿舎生活を分析した。 まず、世界的に見れば、工業化初期に大規模な織物工場や紡績工場で寄宿舎を設ける事例は珍しくないものの、日本ではそれが第二次世界大戦後も重要な意味を持ち続けた点に特徴があることを指摘した。戦後の工場寄宿舎については、一定の法的規制と「寄宿舎の自治」を前提として運営されたことは周知であるが、その内実はあまり知られていない。そのため本研究は「寮管理日誌」の分析を通して、1960年代の工場寄宿舎での生活実態を明らかにした。 その結果、工場寄宿舎に暮らす女性たちが工場で生糸生産に従事する労働者であると同時に,地域の商店や自社製品の重要な顧客となっていた点を指摘し、彼女らが高度成長期の消費生活を享受しており、少なくとも,自身が稼いだ収入を自分の意志で処理することが可能であったことを確認した。このことは、寄宿舎制度のあり方が長期的に大きく変容を遂げていたことを示し、拘禁性を寄宿舎制度の本質とみる先行研究に見直しを迫るものと言える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
富岡製糸場における現地調査を予定していたが、調査に行くことができず、資料整理アルバイトも確保できなかった。また、予定されていた国際学会が延期となったため、その報告準備も予定通りに進まなかった。
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今後の研究の推進方策 |
報告を予定していた国際学会の延期日程が明らかとなったため、改めてその日程に向けて報告準備を行う。また、群馬県での追加調査ができるよう準備をしておく。
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次年度使用額が生じた理由 |
現地調査ができず、また、報告を予定していた国際学会が延期となり、参加予定の国際会議もオンライン開催となり、旅費の使用がなかったため。現地調査が可能となり、報告予定の国際学会が開催される際に、旅費として使用する計画である。
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