本年度は、第一年度から第三年度における台湾・韓国間の比較検討で得られた三つの相違点が有する経済史的意義について総括する作業が中心となった。すなわち、旧日本資産の多くが民営企業に払い下げられた韓国と、旧日本資産の多くが公営企業化された台湾という第一の相違点、韓国における米国援助資金は財閥系企業に優先的に配分された一方で、台湾における米国援助資金は公営企業に優先的に配分されたという第二の相違点、韓国では財閥系民営企業による寡占が多くの産業で確認される一方で、台湾では川上産業における公営企業による独占、川下産業における激しい民営企業間競争が確認されるという第三の相違点についてである。 国内市場の飽和に直面して輸入代替工業化から輸出志向工業化へ転換する過程は、台湾も韓国も同様であった。しかし、輸出の担い手に関しては、韓国は大規模財閥系民営企業であったのに対し、台湾は中小規模民営企業であったという相違点があり、これは既述した相違点とも無関係ではなかったと考えられる。これら相違点の契機の一つは農地改革期にさかのぼり、小作農から自作農に転換した小農にとって地価・地租の支払いは高負担であったことは共通であったが、高負担であったが故に国内農村市場が狭隘であった韓国とは異なり、台湾は高負担にもかかわらず国内農村市場に厚みがあった。輸入代替工業化期において、ひたすら輸入材を加工する都市工業において資本蓄積を進めた韓国と、農村工業から都市工業への資本移転をともないながら資本蓄積を進めた台湾との相違が、輸出の担い手に関する相違点につながったと考えられる。
|