資料の検索・精査: 本研究の基礎となるのは二つの手稿資料、①ロンドン市の対王室へのローン関連会計記録、および②財務室Chamberの会計簿であり、いずれもロンドン首都文書館(LMA)に所蔵されている。前者については4年程前に調査を始め、昨年までにほぼ調査・撮影を完了していたが、欠落などの部分もあり補足が必要だった。1633年から連続して残存している後者については以前から調査を続けてきた。しかしこれは1年度分だけでも膨大な量の記録であり、全体の一部しか撮影・分析を終えていない。これら未調査・欠落部分を補足・精査する計画は、昨年はコロナのために不可能だったが、今年度は3週間にわたって現地で行った。 継続作業: ①についてはこれまでの作業を継続し、史料を解読して、王室の借入の目的、担保となる税収入、徴収方法、貸付額、貸主、利子支払い、元金償還などについて年度ごとに整理し、さらに関連した財政史料をリンクさせ、「王室ローン・データベース」を完成させる作業を続けた。 本年度の追加作業: これに加えて、本年度は資料②の解読・分析も集中的に行い、このローンの背景となるロンドン市の財政の実態の解明にも努めた。ロンドン財政は内戦期の出費、疫病や大火などにより悪化を加速させたが、1680年代より、事実上のデフォルトに陥る。その最大の要因は孤児預託金の運用の失敗にあった。しかしロンドン市の財政には、継承危機問題に代表されるロンドン市と王権の関係、ロンドン市内部でのウィッグとトーリの党派抗争、王権の対外政策などの政治、外交問題が複雑に絡んでいた。王室=中央政府に対するロンドン市のローンには、これら複雑な歴史的経緯や要因が集約されている。名誉革命は政府とロンドン市の関係の一つの転機となったが、財務室の機能は維持ざれ、イングランド銀行が設立されるまで、新体制の財政を支える機関として一定の役割を果たした。
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