研究課題/領域番号 |
19K01794
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研究機関 | フェリス女学院大学 |
研究代表者 |
齊藤 直 フェリス女学院大学, 国際交流学部, 教授 (90350412)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 経済史 / 経営史 / 金融史 / 資本市場 / 株式市場 / 企業金融 / 企業統治 / 株式分割払込制度 |
研究実績の概要 |
本研究課題は、戦前日本における企業金融を特徴づける最大の特徴の1つである株式分割払込制度(資本金を複数回に分けて払込むことを認める制度)に着目し、(1)同制度の下で存在した払込金額の異なる複数の株式(旧株と新株)の株価を用いて、企業統治論の分野で核心的なテーマである企業支配権の価格の計測を行うとともに、(2)企業支配権の価格の時系列的な変化を検証する作業を通じて、企業統治のあり方の時系列的な変化(資本家的な個人株主による発言“voice”を通じたガバナンス⇒法人株主による長期的視点に立った監視と、個人の少数株主による退出“exit”を通じたガバナンス)を検証することを最終的な課題としている。 4年間の研究期間のうち、2年目にあたる2020年度は、前年度から引き続き、(1)株式分割払込制度の基本的な特性について検証する作業と、(2)払込金額の異なる旧株と新株の株価の関係について、事実を様式化するための基礎作業を進めた。このうち、(2)については、後出の「現在までの進捗状況」の項目で記す通り、国会図書館などの機関が利用しづらい状況にあったことにより、進捗が目標よりもやや遅れた。 (1)については、資金調達面における株式分割払込制度の特徴を考えるために、追加払込徴収(新株の株主から未払込資本金を徴収すること)という資金調達手段が持った意味について検討する作業を、前年度から継続して進めた。具体的には、実質的に経営破綻状態にあった企業ですら、予定額の8~9割にあたる金額の資金調達を行うことができており、追加払込徴収を経営者が裁量的に行い得る資金調達手段であるという制度的な特徴は、現実においても機能していたことを示す論文を公刊した。一方、(2)については、2020年度の終了段階でデータの構築を終えることが当初の目標であったが、やや進捗が遅れたことにより、完成を21年度に持ち越した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「研究実績の概要」欄に記した通り、4年間の研究期間のうち初年度にあたる2019年度は、(1)株式分割払込制度の基本的な特性について検証する作業と、(2)払込金額の異なる旧株と新株の株価の関係について、事実を様式化するために必要な基礎作業(主要な銘柄の日次株価に関する情報を収集する作業)を進めた。 このうち、(1)については、資金調達面における株式分割払込制度の特徴について、前年度に公刊した論文の内容を受け、さらに詳細に検討する論文を公刊することができた。研究期間の後半に取り組む予定である、株式分割払込制度をめぐる主要判例に関する検討や、追加払込徴収時における失権株数についての定量的な分析を行ううえでの準備作業が整ったといえる。一方、(2)については、夏季と春季のまとまった時間が取れる期間に取り組むことを計画していたが、新型コロナウイルス問題への対応で国会図書館などの機関が長期間にわたって利用しづらい状況にあったことで、作業にいささかの遅れが生じることになった(調査を予定していた国会図書館以外の機関についても同様)。 以上のように、(1)については予定をやや上回る進捗状況であり、(2)については予定をやや下回る進捗状況であることから、それらを総合的に判断して、「おおむね順調に進展している(Progressing Rather Smoothly)」とした。
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今後の研究の推進方策 |
4年間の研究期間の3年目となる2021年度においては、(1)2020年度に引き続き、株式分割払込制度の基本的な特性について検証する作業を進めるとともに、(2)やや進捗が遅れている、払込金額の異なる旧株と新株の株価の関係について、事実を様式化するために必要な基礎作業を進めたうえで、旧株と新株の株価の関係について具体的に検証する作業を本格化させる。 (1)については、資金調達面における株式分割払込制度の特徴を検討する作業をさらに進め、具体的には、①追加払込徴収の実行時において発生した失権に関する大量観察の実施、②株主による追加払込徴収の拒否と失権に関する判例についての検証、などの作業を進め、論文として公刊することを目指す。 (2)については、新型コロナウイルス問題への対応としての国会図書館などの機関が利用しづらい状況がどのような形で推移するかによる面があるが、①主要な銘柄の日次株価に関する情報を収集する作業を可能な限り速やかに進め、データの完成を目指すとともに、②株式分割払込制度のもとでの旧株と新株の株価の関係に関するひととおりの分析を終え、暫定稿の段階にまで到達することを目指す。仮に新型コロナウイルス問題がさらに長期化し、この(2)の作業が遅れる場合は、(1)の作業を先行して進めることにより、研究課題全体での進捗を遅れさせることがないようにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルス問題により、2019年度の末期から20年度全体にかけて、大阪府中之島図書館(大阪株式取引所の関連資料)や東北大学附属図書館(東京株式取引所の関連資料)などへの調査出張を控えたことにより、本研究課題で最大の費目となっている出張旅費で相応の未使用額が生じた結果として、次年度使用額が生じている。 研究計画は2年間残っているため、2021年度に調査出張を行うことにより、全体としての研究計画を遂行することは可能であると考えているが、新型コロナウィルス問題が年単位でさらに継続、ないし深刻化した場合には、「研究実績の概要」欄の(1)にあたる部分の比重をやや高める形で研究計画の再構成を行うことを検討する。この検討は、新型コロナウィルス問題の動向を注視しつつ、本年度の半ばには行うこととする。
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