本研究課題は、戦前日本における企業金融を特徴づける最大の特徴の1つである株式分割払込制度(資本金を複数回に分けて払込むことを認める制度)に着目し、(1)同制度の下で存在した払込金額の異なる複数の株式(旧株と新株)の株価を用いて、企業統治論の分野で核心的なテーマである企業支配権の価格の計測を行うとともに、(2)企業支配権の価格の時系列的な変化を検証する作業を通じて、企業統治のあり方の時系列的な変化(資本家的な個人株主による発言“voice”を通じたガバナンス⇒法人株主による長期的視点に立った監視と、個人の少数株主による退出“exit”を通じたガバナンス)を検証するための基礎作業を進展させることを課題としている。 5年間の研究期間(当初の計画であった4年間に延長を申請した1年を加えた期間)のうち、最終年度にあたる2023年度は、前年度から引き続き、(1)株式分割払込制度の基本的な特性について検証する作業と、(2)払込金額の異なる旧株と新株の株価の関係について、事実を様式化するための基礎作業を進めた。 このうち、(2)については、2020年度以降に新型コロナウィルスの蔓延への対応により国会図書館などの機関が利用しづらい状況が続いたことで、作業の進捗に遅れが生じていた。作業環境がある程度改善した2022~23年度に、作業のペースを上げ、2020~21年度を上回るペースで作業を進めることができたことにより、進捗の遅れを縮小することができた(最終的にある程度の遅れは残った)。(1)については、資金調達面における株式分割払込制度の特徴を考えるために、当時の株式取引所(主に東京株式取引所、大阪株式取引所)における株式取引の実態を明らかにする作業を進め、2022年度に公刊した2本の論稿に続き、2023年度には、戦前日本の株式市場において長期清算取引が果たした役割について検証した論稿を公表した。
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