2023年度は、1960年代半ばから70年代前半にかけて西ドイツの各州で進められた自治体改革に関する論文の執筆を進め、ほぼ完成することができた。西ドイツの自治体数をほぼ3分の1に減じたこの改革は、同国の地方自治、そして民主主義にいかなる影響を及ぼしたのか。論文では、西南ドイツのバーデン・ヴュルテンベルク州を事例としてこの問題を検討した。結論のみ言えば、改革による自治体の大幅な再編は、かつての「牧歌的な」自治体自治を過去のものとする、いわば最後の打撃となった。規模を拡大した自治体の運営は官僚制的な色彩を増し、一般住民と自治体行政機関との関係は疎遠さを増した。ただし、改革が自治体民主主義の解体にただちにつながったわけではない。注目すべきは、多くの自治体で種々の協会(クラブ)活動が活性化し、自治体住民の結集の場としての機能を維持・強化したこと、そして協会が、社会的・政治的にアクティブな人々の「貯水槽」となったことである。1970年代以降における市民イニシアティブの簇生(自治体再編に対する住民の反対運動は、その端緒の一つを成した)が示すように、この時期以降、西ドイツでは草の根民主主義、あるいは直接民主主義的な運動が高まりを示す。改革後の自治体も、こうした要素を組み入れつつ、ドイツの民主主義の重要な基盤をなすことになるのである。 論文はかなり大部のものとなり、大学紀要への連載(4回連載の予定)の形で発表することにした。その上で、他の論文とあわせて1書にまとめ、刊行することを考えている。
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