本研究の目的は、高度成長期の日本でプラスチック射出成形用金型の製造を担った主として中小企業の形成過程を明らかにすること、及びその受発注をめぐる発注側大企業と受注側中小企業の特殊な関係(デザイン・イン関係)の発生史を明らかにすることである。このために、これまでプラスチック射出成形企業の形成とプラスチック射出成形機の普及過程、プラスチック射出成形用金型企業の形成過程、発注側大企業、プラスチック成形企業、プラスチック金型企業の3者の関係について、資料調査、関係者へのインタビュー調査を進めてきた。これらの作業はおおむね終了し、2022年度ではこれら個々の論点を総合的に検討した。その結果、日本の中小零細金型製造企業の技術・技能の高度化は、発注側企業との長期継続的な取引関係と熟練技能者中心の生産体制に基づいていたこと、また、それが金型をめぐる日本特殊な受発注関係の根拠となっていたと整理することができた。また、本年度はこれまでの研究過程で明らかになった日本独自と考えられる金型産業の形成過程、金型の生産体制のあり方、受発注をめぐる企業間関係の国際比較研究・調査を進める予定であった。しかし、コロナ禍の影響があり部分的にしか実施できなかった。特に中国やタイなど東・東南アジアにおける金型企業の調査をふまえて日本の特殊性を明らかにする予定であったが、それらは今後の課題となる。他方でこれまでプラスチック射出成形用金型企業の形成過程の研究として日本金型工業会資料のデータ整理を行ってきたが、同資料には多数の金型ユーザー側の資料も含まれており、それについての整理作業を行うことができた。
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