研究課題/領域番号 |
19K01802
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
阿部 智和 北海道大学, 経済学研究院, 准教授 (20452857)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 経営組織論 / コワーキング / コミュニケーション / イノベーション / ワークプレイス・デザイン / 共有・共創空間 |
研究実績の概要 |
2020年度は,コロナウイルス感染症によるパンデミックのため,年間を通じてデータ収集がきわめて難しい状況にあった.そのため,研究の進め方にある一定の変更が必要であった.研究課題と矛盾が生じないように検討したうえで,具体的には,以下の3つの作業を進めた. 第一に,過去に入手したデータを再分析することにより,オフィス(ワークプレイス)内でコミュニケーションに影響を与える要因の探索を行った.その成果は,査読付き学会誌(『組織科学』54(3), 4-19.)で公表した.この作業で得られた知見は,コワーキングスペースのユーザー及び運営者による交流や協働を通じた,イノベーション創出プロセスに焦点を当てる,本研究課題にとって援用可能であると考えられる. 第二に,コワーキングスペース内での利用者行動に関連する,先行研究のサーベイを行い,実証研究に向けた尺度開発を行った.そのうえで,経済活動がいち早く回復したとされる中国において,コワーキングスペースのユーザーを対象に2021年2月に質問票調査を行った.具体的には,スペースのデザインやスペース内のコミュニティの形成状況が,ユーザー間の知識共有活動に与える影響について調査を行い,約500件のデータを得た.現在,データの分析を進めており,2021年度の上半期に分析結果の一部をまとめ,日本国内の学会誌に投稿する予定である. 第三に,前年度に引き続き,コワーキングスペースの事業継続に影響を与える要因に関して分析を進めている.これらは2021年度後半に分析結果をまとめ,海外ジャーナルに投稿する予定である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
進捗状況が「やや遅れている」と判断するに至った最も大きな理由は,コロナウイルス感染症に伴うパンデミックにより,多くの経済活動が停止,もしくは,大きな変更を迫られたことにある.とりわけ,人々が集って働くということが見直しを迫られることになった影響は本研究課題にとって甚大であった. 具体的には,データ収集(質問票調査やインタビュー調査)が年間を通じてきわめて難しい状況にあった.また,仮にデータが収集可能だとしても,コロナ禍という「特殊状況」のデータが,今後の研究にとって重要か否か判断がつかないということも,研究進捗に負の影響を与える要因であった. また,ユーザー行動の調査に関する尺度開発にも想像以上の時間がかかっていることも研究進捗がやや遅れている理由である.この数年でコワーキングに関する研究は急増しており,最新の研究までカバーしたうえで尺度開発を行っていることが大きな要因である. さらに,国際ジャーナルへの投稿作業は,2018年度から投稿している論文が採択に至らず,複数回の改訂作業を行っている.そのため,当初計画よりもさらに遅れが生じている.
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今後の研究の推進方策 |
2021年度は以下の5つの作業を行う.これらの作業を通じて,4年計画の3年目となる2021年度で,計画の遅れを取り戻す予定である. 第一に,現在改訂作業を進めている論文について,国際ジャーナルに採択されることを目指す.具体的には,コワーキングスペースのスペース空間のデザイン,スペース運営者によるイベントなどの活動実施,利用者間の相互作用とイノベーション創出に焦点を当てた分析結果を公表する. 第二に,2020年度末に収集したデータをもとに,コワーキングスペースのユーザーによる知識共有行動に関する分析を行い,複数の論文を執筆する.さらに,これらの作業を通じて,後続する調査・研究のための質問項目の調整,尺度開発を行う予定である. 第三に,大規模な調査を2つ行う.ひとつは,上記の分析結果を踏まえ,コワーキングスペースのユーザー間での知識共有に至るメカニズムを解明するための調査である.もうひとつは,スペースのユーザーが他のユーザーとの協働や交流を通じて,心理状況(たとえば,ウェルビーイングなど)にどのような変化が起きるのか,という調査である. 第四に,これらの調査・分析を踏まえ,スペース内でのユーザー間の相互作用が個々のユーザーによる事業の収益化プロセスに与える影響について解明を試みる.2021年度は,先行研究のレビューおよび仮説構築に注力し,2022年度上半期に調査を行う. 第五に,ワークプレイスについて国内外の研究や調査を渉猟し,ワークプレイスの過去と現在の状況を体系的に整理したレビュー論文,および,その知見を活用した一般向け書籍を執筆する予定である.これらの作業により,コワーキングスペースに求められる役割をより明確にする.
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナウイルス感染症によるパンデミックのため,当初計画していた国際学会への出席,質問票調査を中心としたデータ収集などが年間を通じてきわめて困難な状況であった.そのため,当初予定していたほどには研究資金を要することがなかった.これまでの未使用額は主に以下の2つに充てる予定である.第一に,2020年度末に行った質問票調査の分析結果を取りまとめ,海外の査読付き学術誌に投稿する際の英文校正費用に充てる.第二に,2021年度の上半期に大規模な質問票調査を2つ予定しており,これらの実施費用にも次年度使用額を活用する予定である.
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