研究課題/領域番号 |
19K01802
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
阿部 智和 北海道大学, 経済学研究院, 准教授 (20452857)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 経営組織論 / コワーキング / コミュニケーション / イノベーション / ワークプレイス・デザイン / 共有・共創空間 |
研究実績の概要 |
2022年度は具体的には以下の作業を進めた.一部の作業は,この研究課題を基盤とした関連課題である,国際共同研究加速基金(国際共同研究強化(A))の作業と重複している. 1.国際共同研究強化(A)の課題を円滑に遂行するため,データ収集先の一つとなる,日本国内でのコワーキングスペース(および同様の機能を持つスペース)や利用者に関する研究の進展や現状の把握に努めた.具体的には,国内で行われた研究(論文や学会報告要旨)などを,包括的かつ体系的に調査し,その内容を精査したのちに,約80本の論文や学会報告要旨を対象に,レビュー論文の執筆作業を進めた.まず,社会科学系の論文に注目し,レビュー結果をディスカッション・ペーパーとしてまとめた.また,建築学などの視点から当該現象に迫った研究については内容の把握に努め,レビュー論文の流れを確定させ,2023年度前半に公表する準備を終えた. 2.2021年度中に2回実施した,利用者に対する質問票調査の結果をまとめた.これらの分析では,コワーキングスペースでの知識共有に影響を与えうる,スペースの物理的デザイン(に対する認知)やコミュニティを先行要因とし,ユーザー間での知識共有と個々のユーザーの創造性に及ぼす影響に注目した.現在,投稿に向けた最終的な作業(英文校正など)を進めている. 3.コワーキングスペースの利用者が,スペース内での交流や共有を通じて,ビジネスモデルを確立していくプロセスを探求する作業で参照するため,ビジネスモデル変革を遂げた企業を対象とした,インタビュー調査や社内の会議録の調査を進め,ビジネスモデルやビジネスモデル(の創出や変革)に関する理解をさらに深めた.対象企業は,コワーキングとは直接関連しないが,ビジネスモデルの理解にとって示唆に富み,本研究課題にとっては重要な作業である.成果の一部は2023年6月に『組織科学』に掲載予定である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究課題の進捗状況が「やや遅れている」と判断した理由は以下のとおりである. 1.前年度に収集済みのデータ(コワーキングスペースの利用者の知識共有と創造性に関する質問票調査)の分析について,当初に予想した以上の時間がかかり,年度内に論文としてまとめる段階までしか進まず,英文校正等の作業が残されており,国際ジャーナルへの投稿には至らなかったことである.また,数年前に収集したデータ(スペースの運営戦略などと成果の関係)に関連する論文のプロジェクトも実質的に中断・停滞状況となっている点も課題のひとつである. 2.前年度から継続して進めている,ワークプレイスについて国内外の研究や調査を渉猟し,ワークプレイスの過去と現在の状況を体系的に整理したレビュー論文,および,その知見を活用した一般向け書籍の進捗も7割程度でとどまっており,公表に至っていない. 3.日本国内で行われた,コワーキングスペースやコワーキングにかかわる論文や学会報告要旨のレビューも,一部はディスカッション・ペーパーとしてまとめたものの,残り半分程度の論文のレビュー結果については,内容を確定する段階までは至ったものの公表できていない.これらを取りまとめて,学会誌もしくは学内紀要に投稿するにはまだ2か月ほど要する段階にある. 4.国際共同研究加速基金(国際共同研究強化(A))との連携状況も十分とは言えない.可能な限り早期の段階から,スムーズに共同研究に移行するには,当該現象(コワーキングスペース(や同様の機能を持つスペース),コワーキング(とそれに類する働き方)の先行研究について体系的・包括的な把握が必要である.しかしながら,コロナ禍以降に公表された海外論文のサーベイが完了しておらず,共同研究に値する研究課題を見出すに至っていないという課題が残されている.
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今後の研究の推進方策 |
期間延長が認められた結果,新たに最終年度となった2023年度に,以下に示す5つの作業を行うことを通じて,計画の遅れを取り戻し,本研究課題の計画達成を目指す. 1.分析作業を終えた2つの論文について,インパクト・ファクター付き国際ジャーナル(経営学や建築学,(環境)心理学などジャーナル)に投稿し,採択されることを目指す.現在,英文校正などの作業を進めており,6月末までに投稿する. 2.ワークプレイスについて国内外の研究や調査を渉猟し,ワークプレイスの過去と現在の状況や知見を体系的に整理したレビュー論文,および,その知見を活用した一般向け書籍執筆を前年度に引き続き進める.また,日本国内で行われたコワーキングスペースや利用者に関するレビュー論文を完成させ,国内の学会誌もしくは学内紀要に投稿する.これらの作業をもとに,コワーキングスペースの特徴(空間自体の物理的特徴やコミュニティなどの社会的な特徴)と利用者行動,成果(ビジネスモデルの創出)の関係を明らかにする分析モデルを構築する. 3.ビジネスモデルやその創出に関する先行研究のレビューを進める.とりわけ,スタートアップなど,コワーキングスペースの利用者・入居者と関連の深い対象に注目した研究を中心にレビューを進める. 4.上記3つの成果をもとに,年度後半に利用者に対して質問票調査を行い,データ分析作業までを年度内に終了させる.そのうえで,2024年度前期中にインパクト・ファクター付き国際ジャーナルに論文の投稿をする. 5.本研究課題の関連課題である国際共同研究加速基金(国際共同研究強化(A))との連動を進め,海外の研究者と共同研究プロジェクトを創始させ,年度内にデータ収集まで終えることを目指す.さらに,複数年度にわたる課題となっている,スペースの運営戦略などと成果の関係に関する論文など,投稿に至っていない論文の投稿も順次進める.
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次年度使用額が生じた理由 |
投稿論文の英文校正を予定していたが,年度内に投稿に至らなかったため,残額が生じた.2023年度には3から4本の英文校正を予定している.また,利用者を対象とした質問票調査も年度内に実施できなかった.残額はこれらの費用に充てる予定である.
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