研究課題/領域番号 |
19K01803
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研究機関 | 埼玉大学 |
研究代表者 |
内木 哲也 埼玉大学, 人文社会科学研究科, 教授 (70223550)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | システムデザイン / ナラティブ分析 / 暗黙知 / 情報化社会 |
研究実績の概要 |
情報システムは人々の組織的活動と共に立ち現れ、組織や社会の成立に不可欠な基盤を形成する。その捉え方は、人々の解釈や見方などの文化や社会的意識によって異なると同時に、システムに依拠した活動は文化や構成員の意識を形成する。このような観点に基づき、現在の我が国における情報システムの捉え方や社会的な意識が構築された要因および過程を解明すべく、情報システムに対する言説と実務の場での問題意識を歴史的経緯から解き明かすべく調査を進めてきた。 本年度は、新型コロナウイルス感染対策のため、シニアの実務者への聞き取り調査を延期し、文献調査を中心に調査データや知見を社会学的見地から分析するための枠組みについて検討した。その成果としては、社会学で議論されているメディアを発動させている社会システムの核として情報システムを位置付けることができることと共に、メディアコミュニケーションの枠組みにおける情報システムの射程を明確化できた。この研究成果については、経営情報学会で報告すると共に、紀要論文としてまとめて公表した。 また、コロナ禍の状況下で俄に取り沙汰されるようになった国際社会の中での我が国のIT化の遅れは、本研究の着眼点である社会と情報システムデザインとの不適合がもたらした帰結として捉えることができる。我が国では、新たなITを取り入れつつも着地点が明確な現行の情報処理システムに依存した表層的事象の効率化や多機能化が優先されてしまい、新たなシステムのあり方や位置付けをも含めた本質的な議論が必要とされる分析や設計は忌避されてきたことが、緊急事態下でのシステム利用や効用を発揮できないばかりか、逆に行動を制約する足かせとして前景化してきたための認識を促すこととなるからである。このような社会の情報化に関する我が国の言説についても情報システム視点から考察し紀要論文としてまとめた。この論文は近日公開される予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
新型コロナウィルスの影響で本年2月以降に本格的に開始予定であった実務者と直接面談して調査することが困難な状況となっている。特に、調査対象者はシニアであるため、研究協力のみならず聞き取り調査の実施そのものを困難にしている。そのため、調査対象者を当初予定から変更することを検討中である。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、これらの調査によって裏付けられた情報処理システム構築に関する具体的な知見に基づき、延期されている情報処理システムの設計開発現場での実践を担ってきたシニアの実務者に対する聞き取り調査を実施し、設計の要としての暗黙知を認知し峻別するためのシステム開発経緯に関するナラティブを文書化していく。また、これらの調査資料に基づき、相互認識プロセスを進展させると共により踏み込んだ聞き取り調査を進めるための媒介となる基礎資料として、実務者が開発に携わった具体的な情報処理システムの設計過程の文書化にも取り組む予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルスの影響で本年度に予定されていた実務者に対する面談による聞き取り調査の実施だけでなく、海外研究者との研究打ち合わせ、国際会議への参加が困難であったことから、そのための経費が繰り越しとなったため。
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