情報システムの設計開発方法論の良否は、その社会的文脈との適合性が重要な鍵といえる。特に、現代社会で求められる組織構成員相互の積極的なコミュニケーション活動を促す活性的な情報システムを我が国で実現するためには、日本社会でメディアコミュニケーションが形作っている情報システムのあるべき姿や特徴を探ることが必要である。本研究では、調査対象として、様々な現場で情報システムというメデイアが形作るメディアコミュニケーションの問題状況についての調査研究に着目し、研究に従事する当事者への聞き取り調査を実施した。情報システムの視座からのメディアはシステム機能に不可欠な情報の媒介物であるが、広く一般的なメディアの視座から見た情報システムはその利用者間のコミュニケーションを媒介するメディアである。この複雑な関係は利用者が情報システムをコミュニケーションメディアとして使用することができるか否かがシステムデザインの成否要因の一つであることを示唆しているからである。本年度は、新たに18件の調査研究を対象に分析を行い、メディアコミュニケーション現象の中で作動している、明示的で形式的な情報システムそのものに関することではなく、そのシステムに誘発されて発動している暗黙的で非形式的な情報システムに関することであったと捉えることができた。メディアコミュニケーション現象に関する研究事例の分析結果は、ICTシステムを中心に認識され、固有の機能性として語られる明示的で形式的な情報システムが、実はその利用者たちに誘発させた暗黙的で非形式的な情報システムの発動の下で機能性を評価されていることを示唆するものであった。つまり、利用者たちが形作る非形式的な情報システム無しには、形式的な情報システムも所定の機能性を発揮できないことを意味していることが、本研究の成果として明らかにされたわけである。
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