本年は研究最終年であった。文献研究から設計された分析モデルに従い調査票を設定し、質問票調査を数回、実施した。対象は、兵庫県等に立地する企業、介護施設・医療機関で従事する人員であった。 分析の結果、組織成因は、職場内の人間関係や職場外の諸要因によって、それぞれ関係性の中に「埋め込まれる」ことになり、その事によって職場定着が促進されることが明らかとなった。職場定着を説明・予測する要因として、一般的に、組織内部の諸要因のみが注目されるのだが、そのような従来の見方に対する新しい視点を提供する有意義な結果であった。 ただし上記発見事実は、本申請課題の中心的関心事ではなく、副次的発見であった。本来は、感情労働の肯定的側面(次元)と、それを促進する人的資源管理施策のあり方を明らかにすることであった。この根幹部分に関わる分析については、現在も継続して取り組んでおり、その結果の好評にはもうしばらくの時間が必要である。 分析は継続中であるが、その中で認識されつつある研究課題としては、人的資源管理施策を測定する尺度開発の困難さである。当該領域では、人的資源管理施策の有無、適用経験の有無のみならず、施策をどのように個人が捉えているかという「認識」という観点から操作化し、分析する傾向がある。ただし、人的資源管理施策の認識を測定化する尺度として一般的・支配的なものは未だ存在せず、それぞれの研究関心に従って、適切な尺度を選択しているのが実情である。感情労働を促進する施策をどのような尺度を設定し測定するかによって、研究の方向性が大いに変わってくる。この点をいかに解決するのかが、引き続き今後の課題となるだろう。
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