研究課題/領域番号 |
19K01826
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研究機関 | 徳山大学 |
研究代表者 |
大田 康博 徳山大学, 経済学部, 教授 (90299321)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | クラフト / 地域 / 繊維産業 |
研究実績の概要 |
今年度は、エッセイ的なものは執筆したが、研究成果として公刊されたものはない。 エッセイでは、歴史的・国際的な観点から見た筑後産地の特徴について概観している。そこでは、まず、産業空間と生活空間が調和していることを指摘した。欧米では、産業空間と生活空間は基本的に分離している。しかし、筑後では、それらは渾然一体となっている。もちろん、日本にはそのような産地は少なからず存在する。 次に、様々な年代の技術が今もなお利用されていることである。筑後には、まず、無形重要文化財の伝統的な製法を採用する職人が存在する。そこでは、天然灰汁発酵建てによる本藍染、麻糸による手括り、そして手織りによる製織が行われている。次に、旧式の力織機を駆使する生産者も重要な存在である。旧式の力織機とは、主に高度成長期に導入されたものであり、シャトルを用いる小幅の織機である。動力は、モーターだが、各織機にモーターが設置されている場合もあれば、1台のモーターからベルトで各織機に動力を伝える方式を維持しているところもある。さらには、最新技術を用いる生産者も存在する。この生産者は、コンピュータによる織物の設計や新鋭織機による高速生産を実現している。 興味深いのは、こうした多様な生産者が、それぞれが得意とする市場領域で活動しているだけでなく、販売などの場で共存したり、連携したりしていることである。この事例は、新旧の技術それぞれがもつ特徴を踏まえ、どのような事業展開や協働ができるのかを考察する上で、極めて示唆に富む。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究史を理解する上で、組織論、地域産業論、中小企業論などの文献を収集した。従来、申請者が注目してきた空間や時間に焦点を当てた組織化の研究が急速に進展していることを確認するとともに、Entrepreneurial Ecosystemなどの分析枠組みも重要であることが判明した。 また、福岡(筑後)、京都など、各繊維産地で重要な役割を果たしている企業家および行政関係者へのインタビューを実施し、それぞれの取り組みの共通点と相違点を理解することができた。また、他の産地や海外における持続可能な地域産業作りの取り組みにも学ぶことができた。特に、地方で持続可能性を重視するデザイナーの活躍や、再生繊維の地域ブランド化がイタリアで進みつつあることを知ったことは貴重であった。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、本研究課題が対象とする地域について、重点的な調査を行いたい。新型コロナウィルス流行により、訪問調査には大きな制約があるので、文献や統計の検討を中心に行ったり、オンラインでのインタビューを実施したりする可能性がある。
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