第1に,産業地域で育まれたルーティン,当地の経験を要約する概念カテゴリ,産業地域間での国境を超えた制度的文脈の流出入等の産業地域における制度的文脈の形成・変容過程を動かす基本的な社会的装置の理解により,産業地域の内的な構造特性の比較静学的な分析等では実現困難な当地で経時的に展開される一連の事象の因果的な連なりの系統的な記述に寄与する.第2に,産業地域で観察されるマクロレベルの現象を当事者の地平から把握する歴史民族誌アプローチの有効性を確認した.複数の人物の視点から歴史資料の読み方や見解を得,合成をはかる同アプローチは,産業地域で生起する現象のより精密な理解を実現する基盤として期待できる.
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