2023年度は,これまで実施できていなかった現地調査を英国及びオランダにおいて実施した。この調査の目的は,2020年に発生した英国のEU離脱が,日系多国籍企業の欧州地域統括本社にどのような影響を与えたのか,ということを探ることにある。 この影響を探るため,2023年10月に欧州三井物産,三菱商事ロンドン支店などを訪問,2024年3月にジェトロアムステルダム事務所などを訪問し,日系多国籍企業の欧州地域統括本社の動向についてインタビュー調査を行った。ここで明らかになったことは,①販売拠点や生産拠点の移転などの影響はみられるものの,欧州統括本社の英国から大陸への移転はほとんど見られなかったこと,②欧州統括本社の移転が行われた場合でも,大陸でビジネスを行うために必要な一部の機能の移転にとどまっていること,③英国から大陸に欧州統括本社の移転を行うことは,人材確保の観点からも難しいこと,④英国がEUから離脱した状態であっても,欧州統括本社を英国に置くメリットのほうが大きいこと,などである。 研究全体を通じての成果としては,英国のEU離脱による日本の多国籍企業への影響は,当初は大きな影響があるのではと関心が高まっていたが,想定していたほどの影響はなかったことがわかった。むしろ,同時期に発生した新型コロナウイルスやロシアのウクライナ侵攻など,国際情勢を揺るがす大きな動きに対応を迫られ,英国のEU離脱はかき消された可能性もある。
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