公共部門において営まれる科学技術「知識」生産は現代知識社会の基盤を形成している。先進諸国のイノベーション政策は知識生産の促進を目的として数々の施策を試みてきたが、多くの政策は近視眼的であり、特に知識生産を支える「知識人材」の長期的育成の視点に欠ける。学術的にも類似の問題が存在し、知識生産と人材育成を整合的に説明する理論の構築が必要とされている。本研究では、「知識生産」と「知識人材育成」の時間発展のメカニズムを理論化し、これを実証データに基づき検証することを目的とした。
本年度は、欧米諸国における研究者人材を対象として、知識生産と人材育成を取り巻く環境について質問票調査を実施した。文献書誌情報データベース(Web of Science)から大規模データを取得し、質問票調査データと合わせて計量経済学的分析を行った。続いて革新的な知識生産に寄与する人材育成環境を検討する目的で、知識の新規性を定量化する手法を開発した。これを質問票調査回答者に適用し、革新的知識人材の育成に資する環境について多面的に検討した。さらに、プロジェクトの前半に実施した日本における調査結果と合わせて国際比較分析を実施した。また、最近の日本における政策への示唆を目的として、日本の博士人材のキャリアに関する二次データを用いて、博士人材の知識生産及びキャリア選択に関する分析を行った。以上を踏まえ、イノベーションに貢献する人材育成に資する政策オプションについて検討した。
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