研究課題/領域番号 |
19K01834
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
上池 あつ子 神戸大学, 経済経営研究所, 学術研究員 (40570578)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | グローバル・バリューチェーン / インド製薬産業 |
研究実績の概要 |
第1に、2019年10月14~18日において、グジャラート州アフマダーバード市において現地調査を実施したことである。インド大手製薬企業2社の米国向け製品の輸出製造拠点である製造施設において、工場調査を実施した。いずれの製造施設もインドにおいて最大級の製造施設であり、製品の99%が輸出されている。アフマダーバード市周辺所在する製造施設の多くが米国向け製造拠点となっており、製品の大半を米国に輸出している。アフマダーバード市周辺が米国市場向けの製造クラスターとなっていることが確認できた。バイオ後続品(バイオシミラー)の需要増加に伴い、注射剤の製造施設の建設が増加していることも分かった。また、アフマダーバード市周辺には、医薬品の製造設備及び製造機械を製造する機械メーカーも集積しており、アフマダーバード市周辺に製薬産業のGVCが形成されていることが確認できた。 第2に、インド企業の企業情報および財務データのデータベースであるProwess IQを購入し、インド製薬企業のデータの整理を開始したことである。ワクチンメーカーなどのバイオ医薬品企業の多くは非公開企業がほとんどであるが、これら非公開企業の財務データも入手できている。インドの製薬企業数は非常に多いため、まずは主要企業に絞って、データの整理と加工を行っている。データの整理の途上ではあるが、(1)輸出比率の高い企業が収益率が高い、(2)債務比率も低いという2つの傾向が確認できている。GVCへの参加が企業の経営の安定化と生徒長につながっている可能性がある。 第3に、2019年12月に、インド製薬企業のGVCにおけるアップグレードの状況について分析した単著の英語論文(査読付き)が公刊され、2020年3月には、インド製薬企業の研究開発提携に関する論文が公刊された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2019年10月に、グジャラート州アフマダーバード市で集中的に現地調査を実施することができた。現在、アフマダーバード市周辺は、米国への輸出拠点として成長を遂げており、新規の製造施設の建設が進んでいることを確認できた。本課題における大きな成果としては、インドを代表する大手2社の製造施設を調査することができた点である。いずれも、製造能力はインド最大規模であり、生産や輸出の実態を調査により確認することができた。輸出製品の高付加価値化、高度化が進展していることの表れとして、バイオ製剤の製造・輸出拠点となる注射剤専用の製造施設の建設が進んでいることも確認できた。さらに、アフマダーバード市周辺には、医薬品製造機器メーカーや包装容器メーカーも集積しており、アフマダーバード市周辺に、製薬産業のGVCが形成されていることもはっきりと確認できた。 包括的なインド企業の財務データであるProwess IQを購入したことで、インド企業の業績分析が可能になった。非公開企業の財務データを取り扱えることになったため、より詳細かつ包括的な研究が可能になったと考えている。現地調査の結果とProwess IQでの企業データを活用した論文の準備を行っている。 2019年12月には、インド製薬企業のTRIPS協定後のGVC参加とアップグレードを扱った英語論文が公開された。同論文は、本研究課題の研究の枠組みとなる論文である。インド製薬企業のグローバルな研究開発提携に関する論文が2020年に公刊されたが、研究開発のGVCへのインド企業の参入についても、研究を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
インドの現地調査とProwess IQの企業データを組み合わせた研究を継続し、深化させていきたい。Prowess IQのデータの整理を進め、2020年度中には主要50社の製薬企業の財務データや製品データを整理することを目標としている。 2020年度は、インドでの2回の現地調査を予定している。2020年度は、ワクチン専業企業やバイオ医薬品企業での調査と日系製薬企業の調査を行いたい。テーランガーナー州ハイダラーバード市、カルナータカ州バンガロール市といった2つのインドを代表するバイオクラスターと、製薬専用経済特区(SEZ)が立地するアーンドラ・プラデーシュ州ヴィシャーカパトナム市を訪問し、バイオ医薬品企業のGVCの実態とSEZとGVCの関係について、調査を行いたい。 インド企業は中国から原薬を輸入しており、新型コロナウイルス感染症の影響で中国からの輸入が停止し、医薬品を製造できない企業が出てきた。そこで、インド政府は原薬の国産化の促進の強化を打ち出した。GVCとインド製薬産業が抱えるリスクと課題についても、検討していきたいと考えている。新型コロナウイルス感染症はインド製薬産業が抱えるリスクを明らかにする一方で、大きなビジネスチャンスとなっている。インドの大手製薬企業は、新型コロナウィルスに有効とされる抗マラリア薬や抗レトロウイルス薬(抗エイズ薬)の治験を始めている。新型コロナウイルス感染症が、インド製薬産業に与える影響についても検討したい。 2020年4月現在、新型コロナウィルス感染症の影響で、海外への渡航が禁止されている状況で、2020年度中にインドで現地調査を実施できるかどうかは極めて不透明である。現地調査の実施の目途が立たない間は、Prowess IQの企業データの整理加工を進め、主要50社のデータを整理し、2019年度の現地調査の結果と合わせた論文を完成させたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年1月末~3月期に、日本国内における企業調査や研究会での発表を複数回予定していたが、新型コロナウイルス感染症の流行によって、断念をせざるを得なくなり、国内出張旅費にあてていた予算を執行できなかった。新型コロナウイルス感染症の流行で、2020年度も海外および国内での調査実施も難しい状況であるので、この予算をインド製薬産業関連データベースや資料の購入に充てたい。インドのZauba社が提供している通関データの購入を検討している。この通関データベースは、インド政府が公表している輸出入データよりも品目がかなり詳細である。この通関データを分析することで、インドの原薬の輸入依存の実態を明確にすることができる。
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