研究課題/領域番号 |
19K01834
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研究機関 | 中央学院大学 |
研究代表者 |
上池 あつ子 中央学院大学, 商学部, 准教授 (40570578)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | グローバル・バリューチェーン / インド製薬産業 / 人的資源開発 / 新型コロナウイルス感染症 / 同族所有・同族経営 |
研究実績の概要 |
第1に、インドの企業財務データベースであるProwess IQを購入し、製薬企業50社の財務データを整理した。インドでは、同族所有・同族経営支配的である。同族所有・同族経営企業の業績が非同族企業の業績よりも良い傾向にあるという実証研究のアプローチを使用し、インド製薬企業の同族所有・同族経営とインド製薬企業の業績の関係について分析を行った。同族経営がインド製薬企業の経営戦略や長期的な成長にとってプラスの効果を持っている可能性があることが確認できた。研究成果は、勤務先の紀要に研究ノートとして投稿した。 第2に、グローバル・バリューチェーンにおけるインド企業のアップグレードを支える要因として、人的資源開発に焦点を当て研究を進めた。特にバイオ医薬品産業における人的資源開発について、インド政府の取り組みおよび民間企業の取り組みについて研究を進めた。インドでは、フィニッシングスクール制度を導入し、即戦力となる人材の育成を進めていることが分かった。近年では、インド製薬産業への人材供給はもちろんのこと、海外企業へも人材を供給することで、世界規模での産業発展に貢献しているといえる。同研究の成果は、2020年12月のオンライン国際会議で報告し、その原稿は英文叢書に掲載される予定である。 第3に、日印間の製薬産業における相互投資および技術提携の可能性について、新型コロナウイルス感染症のパンデミックという状況も考慮し、インドの共同研究者と共同研究を行った。特に発酵ベースの抗生物質の製造に関する技術提携、直接投資が最も有力な分野であり、日印の抗生物質の安定供給においても重要であることを示した。研究成果は英文査読氏に投稿し、掲載されている。 第4に、新型コロナウイルス感染症がインド製薬産業に与えた影響についても研究を進めた。その研究成果の一部を外務省発行の『外交』に寄稿した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
2020年度は、テーランガーナー州ハイダラーバード市、カルナータカ州バンガロール市といった2つのインドを代表するバイオクラスターと、製薬専用経済特区(SEZ)が立地するアーンドラ・プラデーシュ州ヴィシャーカパトナム市を訪問し、ワクチン専業企業やバイオ医薬品企業での調査と日系製薬企業の現地調査を行い、バイオ医薬品企業のGVCの実態とSEZとGVCの関係について研究を進める予定であったが、新型コロナウイルス感染症感染拡大に伴い、インドに渡航ができず、現地調査が全くできず、進捗状況としては遅れているといわざるを得ない。 また、コロナ禍においても、インド製薬産業の研究開発能力や製造技術の向上や生産能力の増強は進められているし、世界におけるインドの存在感も大きくなっており、コロナ前とは大きく様相が変わってきている。そうした変化を現地調査から明らかにできなかった。特に、原薬産業の振興政策の実施については、グローバル・バリューチェーンの再編ともかかわる。現地調査で得られる知見が得られなかったことは研究の進捗に遅れを生じさせていると考える。 しかしながら、日系製薬企業については、日本本社へのメールなどを通じてヒアリングや意見交換などを行い、インドビジネスの現状についてのフォローアップを行うことができている。 一方で、同族所有・同族経営と企業業績との関係、インド製薬産業における人的資源開発など新しい研究テーマに取り組むことができ、研究成果としてまとめ、公開できたことは大きな成果であると考えている。 また、現下の新型コロナウイルス感染症のパンデミックがインド製薬企業の経営戦略や業績に与える影響についても検討することで、日印間の製薬産業における投資交流や技術提携について、新しい可能性を提示することができ、論文として公開できたことも大きな成果であると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
インド政府は原薬の国産化の促進を打ち出し、各種スキームを実施している。インドのこうした動きは、インド製薬産業の国際競争力をさらに高めるだけではなく、原薬の国際価値連鎖を再編する可能性を持っている。2021年度後半には、インド現地調査を実施し、インドの現状について明らかにしたい。 しかしながら、2020年4月現在、インドの感染状況は深刻で、2021年度の渡航もあきらめざるを得ない可能性がある。その場合は、メールや通信アプリなどを活用したインド企業へのヒアリング調査で補完したいと考えている。 今後もProwess IQの企業データの整理加工を進めると同時に、同族所有・同族経営、人的資源開発の研究を深化させたいと考えている。 また、インドのグGVC戦略をメタナショナル経営という側面からも検討したいと考えている。インド企業の国際経営戦略は、イブ・ドーズらが提唱するメタナショナル経営に近く、自国の優位性の乏しさを克服し、世界規模での競争優位の構築を目指すものであると考える。GVCにおけるインド企業のアップグレードもこうした戦略によって実現してきたといえる。メタナショナル経営には、海外の最先端のナレッジを活かして自社の優位性を構築できるだけの十分な吸収能力を持ち合わせている必要があるが、先進国企業は技術開発能力が高く、海外からの高度な先端ナレッジを吸収する能力を備えているものの、自社の技術力に対する自信からモチベーションが高くない=「技術能力のパラドックス」に陥りやすいといわれている。しかしながら、インドはリバースエンジニアリングの経験も豊富で、吸収能力も高く、技術獲得へのモチベーションも高いため、メタナショナル経営に適合的であると考えている。これまでの研究成果をベースとして、インド製薬企業のメタナショナル経営について検討したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
予定していた2回のインドでの現地調査が実施できなかったことにより、海外調査の予算を執行できなかった。2021年度中にインドへの渡航が可能になった場合は、同予算を使用し、現地調査を実施したいと考えている。しかしながら、2021年度中も、インドにおける現地調査が困難な場合は、インドないしは日本の調査会社にインドにおける製薬企業(インド、外資系)へのアンケート調査の依頼を検討したい。
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