2023年度は、これまでの調査・研究で得られた知見を日本国内外の先行研究に改めて位置付け直すため、特に海外の工芸に関する先行研究の収集・整理に注力した。同時に、日本の刃物産地に関する研究をアメリカで開催された国際学会で発表した(フルペーパーあり)。特に近年輸出額が増加し、活発な活動が見られる複数の刃物産地を取り上げ、2000年代以前と以降の産地内外のアクターの変化を示した。新しいアクターが産地と関わることで生じる産地の変化が明らかになった一方、産地が新しいアクターをどのように受け入れ、活動の変化に結びつけるのかといったメカニズムの解明は課題となった。このほか、海外輸出に関しては、明治期から現在に至るまでの歴史的な視点で輸出動向の変化を見る必要があることがわかり、輸出に関するデータ収集に取り組んだ。 研究期間全体を通しては、感染症による調査の遅れなどはあったが、特に和紙産地と刃物産地の調査を進めることができ、伝統工芸の存続につながる重要なファクターを導くことができた。特に産地が小規模化し、現代における機能的価値がわかりにくい和紙と、産地規模が大きい傾向にあり、機能的価値がわかりやすい刃物を調査したことで、伝統工芸を品目別に整理して議論する必要があることが示された。海外の研究においても和紙のような伝統工芸と刃物では、先行研究での位置付けや研究の文脈が異なることもわかった。2022年度、2023年度の海外での発表を通して、国や地域によって工芸からイメージするものや工芸を対象とする研究の意義は異なるため、工芸の全体像を描き、そこに自身の研究を位置付けなければならないことが課題として浮き彫りになった。今後の研究では、個別産地や品目を対象にするだけではなく、工芸の全体像を示すことにも取り組んでいく必要がある。
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