今年度は京都花街・能楽を取り上げ調査研究を進め、以下の3点の研究実績をあげた。 ①価値共創人材に必要とされる技能の内容とその技能の育成指導の仕組みや獲得のプロセスについて、被育成者の初期キャリアの数年間は、師匠や指導者役の専門職が連携しながら継続的に技能育成に関わり、技能進捗に応じた能力発揮の機会の提供や設定に積極的に関わることが分かった。 ②顧客との関係性の構築の実態とその関係性を通じて共有される情報や創出する価値について、顧客側に対して技能発揮やキャリア形成の状況を見守り、ときには技能発揮に関する厳しい評価などを、師匠側から求めることが明らかになった。顧客の目利きの能力獲得とその技能発揮の場を通じて顧客が目利きする楽しさを体験することが促されていることが分かった。 ③①と②の関連性から価値共創人材を育成しながら事業を継続的に展開する事業システムの特色として、能楽の事例では若手人材の技能発揮を鑑賞する場そのものに価値があることを顧客側が認識したり、京都花街ではコロナ禍で中断した技能発揮の場となる踊りの会の再開にお茶屋や置屋の経営者側が積極的に対応したりすることが明らかになった。 研究期間全体を通じた研究の成果として、日本的な価値共創人材の事例(京都花街・能楽・宝塚歌劇・AKB48)の分析結果の比較から、4事例共通に顧客側が継続的にキャリア形成のプロセスそのものを楽しみ価値を見出す点を明確にした。長期継続的に技能伝承している能楽と京都花街では、価値共創人材の育成のための専門職同士のネットワークが師匠や弟子といった上下以外にも同期などの横や地域や流儀の壁を超えた斜めの関係性があることが明らかになった。専門職の相互連携が創造性の獲得につながることを分析し中国の伝統演技の人材育成事例と比較考察をまとめ、海外学会で複数回発表し英語論文を2本が海外ジャーナルに投稿しアクセプトされた。
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