研究課題/領域番号 |
19K01858
|
研究機関 | 一橋大学 |
研究代表者 |
島本 実 一橋大学, 大学院経営管理研究科, 教授 (20319180)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | イノベーション / 研究開発 / 技術政策 / 経営学 / 環境経営 |
研究実績の概要 |
本研究は、日本企業が将来にわたって、新規事業を開発していくために必要な条件について複数の事例研究を通じて明らかにしようとするものである。近年、日本企業においては、技術的には優位性がある場合でも、それを持続的なビジネスにまで成長させることができず、利益の獲得につながらないという現象がしばしば見られる。それを克服するためには、これまで同様、技術的なイノベーション能力を蓄積することに加えて、それを有効なビジネスにするために必要なスキルを備えた人材(経営者人材)を社内で養成する必要がある。 本研究は新規事業の成否を分けるポイントが、新規ビジネスの担い手としての経営者人材にあるという視点に基づいて、令和元年度には、比較的大規模な日本企業で、社内の人間が新規事業開発に成功した事例に注目し、当該組織内で起きていた現象を明らかにした。 具体的には住友化学の協力をもとに、同社の化学製品であるオリセット・ネットを対象にして、これがいかにして新事業として発展するに至ったのかに関する事例研究を行った。この製品は対マラリア機能をもつ蚊帳であり、現在では国際的に知られる有力な製品となった。これは一つの企業における新製品の成功という枠を超えて、国連のSDGs活動に呼応したものであり、アフリカ諸国における感染症防止のために、日本企業がいかなる貢献ができるかという点に対しても大きな示唆をもたらすものである。本研究は、大企業内の経営者的人材が新規事業を立ち上げていくプロセスを分析することによって、それを可能にする条件として、多様な社内人材のエキスパティーズを交流させること、およびそれを制度的に担保する社内体制の構築が有効であることを明らかにした。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
住友化学を対象にした研究に関しては、その成果は「Boundary Objects as a Learning Mechanism for Sustainable Development Goals: A Case Study of a Japanese Company in the Chemical Industry」と題する論文となり、これは『サステナビリティ』誌に掲載された。 またこのテーマに関して、2019年9月にオランダ、ロッテルダムで行われたヨーロッパ経営史学会において「The Connectedness of Institutions and Human factors in firm’s Sustainability Innovation -the Story of Olyset Net at Sumitomo Chemical Company 」と題する学会報告を行った。この報告では、同製品が開発され事業化されるまでのプロセスに注目し、住友化学における多様なバックグラウンドを持つ人材が相互に交流し、この事業を実現させたプロセスを明らかにした。同社内において青年海外協力隊で働いた経験があるビジネスマンと、殺虫剤を専門とする科学者が出会い、前者の海外経験と後者の技術的な能力が組み合わせられることで、網に練りこんだ殺虫剤によってマラリアを感染させる蚊を退治するというアイディアがもたらされ、これがWHOの協力を得て、事業として自立していく経緯が詳しく説明された。
|
今後の研究の推進方策 |
令和元年度については、1990年から近年にまで続く事例を取り上げたが、今後についてはさらに前の時代に視点を向け、高度経済成長期時代からオイルショックを経て、バブル経済とその崩壊に至るプロセスにおいて、日本企業の内部の経営者人材を育成する体制がいかなるものであったのかを明らかにする。 具体的には、化学企業を題材にして、エレクトロニクスやバイオテクノロジーへの新市場をいかに発見し、どのような新規事業を開発していったのかに関する事例研究を行う。また電気電子企業を対象にして、エレクトロニクスの発達がソフトウェア産業など周辺的な産業における新規事業の開発にどのような影響を与えたのかについて事例研究を行う。 いずれの場合も、最終的な製品を作る企業だけではなく、それに素材や部材を供給する企業がいかにしてビジネスチャンスを発見したのかについて、産業間のネットワークと情報の交流に注目する。本研究は、ある産業が発展した際に、それに関連して生まれる様々なビジネスチャンスを、それぞれの企業がいかにして新規事業につなげることに成功(あるいは失敗)したのかを、引き続き経営者人材の視点に立ち、様々な角度から明らかにしていく。
|
次年度使用額が生じた理由 |
予定されていた出張が中止されたため、また、英文校閲の代金が当初の見積額よりも安価であったため
|