研究課題/領域番号 |
19K01860
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研究機関 | 産業技術大学院大学 |
研究代表者 |
三好 祐輔 産業技術大学院大学, 産業技術研究科, 教授 (80372598)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | EVA / 地域活性化 / 無形資産 / Tobinsq / 同族企業 / 瀬戸内圏 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,ファイナンスというモノの見方を習得することで地域社会を活性化させる取組みの糸口を与えることである。ファイナンスとは狭義の意味では,資金の流れを通じて企業を観察する学問である。一方,広義の意味で捉えるのであれば,企業の将来性を付加価値で表し,社会の豊かさを説明する学問であると言える。これまで,制度上あるいは慣習から「地域活性化」を唱えてきた従来の論者の中に,所得補填の理由から,都市部から地方へ資金を回す地域間再分配政策が,地方創生に繋がると安易に考えてしまう者が少なからずいる。ヒト・モノ・マネーが一時的に流入することで,一見地域が活気付くように見える。しかし,域内で資金が循環せずに都市部に逆流しているのであれば,地域活性化に常に繋がるとは限らない。結果的には地域では衰退が進むケースも存在する。 真の地域活性化がどこにあるのかを判断することが,地域支援策の立案や社会的・経済的影響の精度を高めるものとして重要視され,政策的関心を集めてきている。しかし,域内でどのような基準で事業の再構築を取り組めばいいか,事業再生における経営戦略や地域活性化のための国の支援政策が,地域社会に及ぼす経済的影響はどれくらいあったかを判断する枠組みは,これまで十分には提供されてこなかった。報告者は,地域の衰退が起こる問題のひとつとして,企業・住民の破産数が増加したことが原因となっていると位置付けてきた。そして,自己破産を抑えるため,企業・住民を保護する政策を採ったほうが社会的には望ましいか否か,情報量の格差が原因で市場の失敗が起こっていることを根拠に,取引環境の整備をしたほうがよいかに関する実証研究を実施した。具体的には,社会的弱者の保護を謳った諸制度は,実質的に自由で公正な社会を実現するため機能しているのか,取引当事者の誘因にどのような影響を及ぼしているかの検証を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
従来のファイナンス的アプローチの場合,負債を多く抱える企業の経営者は,将来的に元本も返済することを視野に入れ,元本を返せないと判断すれば,経営活動を停止するのが一般的である。しかし,負債の返済の目処が立たなくても,事業資金を動かせる企業であれば,たとえ自転車操業といわれても,将来性に渡り利益(付加価値)を生み出せる企業は存続させたほうが社会的にも望ましいという見解を提示できるように研究を進めている。 これまで財政学の分野では,急増する臨時財政対策債の残高を問題とし,将来の地方財政運営に悪影響を与えると警鐘を鳴らしている。行政の分野では,緊縮財政や行政組織の効率化によって,その解決策を見出そうとしてきた。しかし,過去に建設された公共施設の更新費用,企業誘致,新産業の創出事業の推進に向けての財源確保の問題に地方自治体は直面している。財政支出の削減を目指す中央政府と財源獲得の競争をする地方自治体を対立軸に捉え,複数の政策目的の間に同調性がない状況で異なる価値観の衝突を調整する場合,複数の解釈の間でその優劣を論理的に決めることは非常に困難となる。また,地域活性化の議論では,マスコミ等を通して個別的な事例を印象論的に現状を紹介しているに過ぎない。推進事業に投じた予算により,どれだけの経済的付加価値が生み出され,その結果,税収がいくら生まれたのかといった費用対効果の視点が明確でない問題点を孕んでいる。このように,真の地域活性化がどこにあるのかを判断することが,政策立案や経済効果の精度を高め,地域企業の経営業績を高めるうえで意義を持つものとして重要視され,政策的関心を集めてきている。報告者は,これまでの海外の先行研究をサーベイし,また瀬戸内圏発祥企業の関係者からのインタビューを通して独自の仮説を導くことに成功した。
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今後の研究の推進方策 |
制度上あるいは慣習から「地域活性化」を唱えてきた従来の論者の中に、財政の健全化を進める政策に対し、大都市圏偏重と地方圏軽視の方針に繋がると安易に考えてしまう者が少なからずいる。しかし、財政の健全化を進める財政政策が、大都市圏偏重と地方圏軽視に常に繋がるとは限らない。昔からの地方企業が存続することなしに、地域の雇用を維持できるわけがなく、地域活性化の目的を達成することはできない。もっとも、生産性が低いため、低賃金等の課題を抱えている。それゆえ、地域にヒト・企業が定着することができれば、各地域が自立して持続的に経済活動を維持できる。そして地方自治体がナショナルミニマムを提供できるように、内生的に必要な財源を獲得できる資金の循環を創出することが地域社会の自立的発展に繋がると考える。従来の補助金や交付税を獲得するための自治体間競争ではなく、内生的に必要な財源を獲得できる資金の循環を創出するシステムの構築が最終的な目標であると考える。 具体的には,資金の供給者にあたる地域金融機関に対し,事業再生の支援を通し,吸収合併や事業承継により,生産性の低い企業から高い事業への集約化を促進していく役割を担うことを期待する。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナウイルスの蔓延で、出張計画を大幅に見直す必要があった。この打開策として、現状できるヒアリング分析の準備に時間を注いだ。具体的には、これまで申請者が中心となって築いてきたネットワークを活かし、研究協力者達とテレビ会議で打ち合わせを毎週行ってきた。申請者が作成した質疑内容を皆で確認し、内容を精査するだけでなく、比較分析を行うためのカテゴリーの見直しを行うことを通して、対象とする企業を絞り込むことができた。コロナウイルス収束後には、前年度予定していた調査分も速やかに実施できるように計画を立てている。
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