研究課題
近年、鉄道、バス、タクシーといった公共交通の利用者は年々減少しており、特に地域公共交通は地域住民の足としての機能を果たすどころか、その存続さえ危うい状況にある。こうした背景には,市街地を走るバスや鉄道の乗客数がほとんどいない路線が目立つため、路線の廃止を求める声が多いということも原因がある。報告者は、瀬戸内圏の持続的成長を地域の交通インフラの整備という観点から、論文“Empirical Study on the Effects of Deregulation in the Taxi Market”を執筆した。その内容は、タクシーと自家用車は代替的関係にはないが、バスとは代替的関係にあるゆえ、バス利用が少ない地域では、タクシーを活用すれば、地域の交通網を維持することができるという内容である。また、「瀬戸内地域の持続的成長に向けての中小企業投資について」という題で、本学の紀要に掲載された。具体的には、財務諸表に計上されていない技術・ブランド・組織力といった無形資産が、瀬戸内圏の企業価値に与える影響を調べることにより、無形資産の投資が企業価値向上に繋がるような経営戦略を行っているのかを共起ネットワーク分析により検証を行った。さらに、2段階修正ホテリングモデルによるゲーム理論分析によって、中国市場に進出した台湾系企業大潤発の行った経営戦略の正しさを理論的に説明することができた。従来の空間的競争モデルでは価格という要素について不十分な考察しかなされず、価格競争の乏しい特定の市場についてのみ説明可能なモデルとなっていた。小売市場など空間的競争と価格競争の激しい業界では適用することができなかった。今回の空間的競争および価格競争の2段階修正ホテリングモデルの構築によって、立地(製品差別化)競争と価格競争のいずれも激しい業界の経営戦略を説明できる理論的根拠を与えられたものと考えられる。
2: おおむね順調に進展している
瀬戸内圏の企業の無形資産への投資実態調査の必要性から、当初計画案のように、研究代表者が現地を訪問し、企業経営者と直接面談をする予定であったが、コロナ渦のため実現できなかった。その代替策として、これまでの共同研究者のネットワークを活かし、企業経営者にON LINEで企業の無形資産に関するインタビュをし、そのソースの一部を利用して共起ネットワーク分析を実施した。さらに、定量的側面から分析する必要性もあるのだが、本学では企業の財務データ等の資料が整備されていないため、理論モデルを構築する上で必要となる実証分析を行うために研究代表者は、次年度以降も財務データが整備されている大学機関に出張することを通して、データ収集を引き続き行う予定である。これまで経営者へのインタビューを通して報告者が着目してきた「無形資産」は、企業にとっては自社の強みであり、将来の利益創出へ繋がるものである。しかし、短期的視点に立つ経営者であれば、有形資産に比べ、研究開発費や広告宣伝費に投資する誘因を持ち合わせていないと通常考えられる。しかし、十分な資産を持つ経営者が大株主である場合、さらなる資産価値の増加を図るインセンティブよりもリスクのある研究開発によって資産価値が棄損することを恐れ、積極的な研究開発投資を行っていないことも考えられる。そこで、「無形資産投資」と「企業価値」の関係性について、大株主である創業家が経営陣に参加している企業とそうでない企業を比較した理論モデルを紹介することにより、経営者が自らの利益を優先する行動を取るというエントレンチメント行動が現れることの説明を試みる予定である。
これまで研究代表者は,定性的分析及び地域が持続的に成長するための交通インフラに関する研究を進め、学術雑誌にそれぞれ掲載されるという成果を収めてきた。こうした研究を進めてゆくうちに、地域経済の持続的成長が進まなかった一つの要因には、これまで地域企業が行ってきたマーケティング的な側面だけでなく、企業価値を高めるための無形資産への投資が積極的に行われてこなかったことが考えられる。現状の経営戦略を続けてゆくと、都市部に比べ瀬戸内地域では企業の成長が将来見込めないことがわかった。また、研究開発費だけでなく、広告・宣伝費等を含めた形でどれだけ地域の企業が無形資産に投資しているのかを明示的に捉える必要性に気づかされた。以上の点を踏まえ、今年度末までには、財務データを用いたデータマインディングの作業を行う予定である。そして、今年度の瀬戸内圏の企業経営者が考える無形資産投資に関するインタビュによる分析結果を踏まえ、自らの仮説を裏付ける理論モデルの構築、そして財務データを用いた実証分析を行い、学術雑誌に投稿する予定です。
本学では企業の財務データ等の資料が整備されていないため、実証分析をする前の作業を行うことができなかった。そのため、研究代表者は、次年度以降も他大学に出張することを通して、データ収集を引き続き行う予定である。
すべて 2021 2020
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 2件)
『東京都立産業技術大学院大学紀要』
巻: 第14集 ページ: pp.71-75.
International Journal of Japan Association for Management Systems,
巻: Volume 12, Issue 1, ページ: pp.37-41.
10.14790/ijams.12.37
『横幹連合会誌』
巻: 第14巻,第1号 ページ: pp. 83-88.