研究課題/領域番号 |
19K01861
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研究機関 | 愛媛大学 |
研究代表者 |
近廣 昌志 愛媛大学, 法文学部, 准教授 (60644466)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 北欧諸国の預貸率 / クロスボーダー銀行業務 / 人口構成 / 新規貸出先の戦力的開拓 |
研究実績の概要 |
初年度は,バルト三国に一部に出向いて,基礎資料とデータの収集作業を行った。また,エストニアにおいては,エストニア中央銀行の研究者と意見交換と研究分野の事情についてのヒアリングを行った。 本研究の本題には,スカンジナビア諸国の高い預貸率の要因分析が含まれるが,それら諸国の銀行業務は,クロスボーダー業務としてバルト三国に進出しており,バルト三国ではスカンジナビア諸国の銀行のシェアが大きく,本国の預貸率変動の要因となっているためである。 とりわけ,エストニアおよびリトアニアについては,証券市場と銀行貸出との関連が複雑であり,これらの事情に関する情報収集・基礎理解・解析を行った。これにより,バルト三国じたいの預貸率の変動要因についても仮説を立てることが出来た。小国の自国銀行のシェアが奪われる場合,当該国の銀行経営は激変することと,それに対する金融監督および金融行政についても照合を行った。 EUメンバーとしての小国がマクロ的に高齢化社会にどのように対応し,経済政策,特に金融行政に関する政策について分析を進めた。特にバルト三国の生産人口構成については,日本との比較において大きく異なる部分があり,その基礎的環境の違いを理論検証に取り込む必要があるため,モデリングの修正を模索した。 なお,日本国内の預貸率の向上についてのヒアリングも行った。とりわけ注目している金融機関(岐阜県高山市)に出向き,キーパーソンから貴重な情報・金融データを収集させていただき,基礎データの構築と変換作業を行った。本研究の意義と照合した場合,国外と国内の両面から具体的な取り組みができたものと考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
バルト三国の金融データの収集の一部が不完全であるものの,エストニアおよびリトアニアについての金融システムに対する事情については,おおむね把握することができた。ただし,スカンジナビア諸国とバルト三国の金融システムに関する既存研究が主要国と比較した場合にとても限られており,スカンジナビア諸国の金融指標が順調であることの要因分析としては,経済システムに対する理解が不足している面は否めないことから,人的ネットワークを拡大させることや,既存研究のサーベイについてはもう少し重点的に取り組む必要があると考えている。なお,エストニアにて購入してきた文献などの資料の解読についても,半分程度は完了しており,この点についても当初計画の範囲である。 また,同時に進めている国内の特色ある金融機関の新規貸出先の戦略的開拓についても,事例のヒアリングが進んでおり,データセットの準備も整った。ただし,成功例の事例に対してはヒアリングやデータ収集が進んだものの,失敗事例ないし極度の困難性を有する事例についてのヒアリングとデータ収集には手が付けられていない。このほか,各都道府県ごとの産業構造のばらつきを,モデリングの際の公平性にどのように処理するかについてのアイディアについても手が付けられていないことから,分析のための下処理に有益な方法の開発について,既存研究からも学ぶ必要性を感じている。 全体としては,当初予定していた初年度の計画としては,おおむね順調に進展していると考えており,特に大きな遅れは生じていないと判断する。
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今後の研究の推進方策 |
国外領域については,研究課題のメイン領域である,スカンジナビア諸国の預貸率上昇要因について領域を移す予定である。これは,既に研究を進めているバルト三国のデータとの接続を含むもので,スカンジナビア諸国に本店を置く銀行の経営実態を明らかにするうえで,周辺国への進出が有益であることを明らかにする予定である。なお,スカンジナビア諸国の大半は,いわゆる「大きな政府」であり,その分,国民の可処分所得も比較的少ないにもかかわらず,なぜ預貸率がすう勢的に上昇するのかを解明したい。 ただし,元々の予定では,スウェーデンのスウェッドバンク等に対してヒアリングを行う予定であったものの,国外への渡航が現実的でない状況が続くようであれば,一部のデータ収集とヒアリングによる実態把握は,次年度に順延させる予定である。 また国内領域については,金融理論の研究者によって構成される研究会「地域金融コンファランス」にて,研究の途中経過を報告・発表する予定である。それには,岐阜県の山間地域のデータを利用して,地域での全体のパイを奪い合わないスタイルでの新規融資先拡大,つまりエリア全体でみた場合の預貸率上昇が可能かどうかを検証する研究発表を予定している。なお,過疎地域における失敗事例についてもヒアリングによってデータ収集と事情把握を実施するで,北海道・道北の信用金庫のエリアを対象とする。これとは別に,政府の補助金等の影響を調べるため,沖縄および周辺の群島エリアのデータ収集と事情把握も実施する予定で,沖縄本島・奄美群島に対する中央政府の財政支出との関連でエリアの預貸率変動の要因分析を実施す。
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次年度使用額が生じた理由 |
航空券などは安価なものを探したが,乗り継ぎ時刻などの関係もあり,バルト三国への出張旅費が予定外に多く必要になったこと,効率よくヒアリング・アポイントメントを設定することも難しく,これらが次年度使用額が生じた主たる要因である。
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