コロナ感染症の影響で、定性的研究が困難であったため、分析枠組みを調整することで、定量データをもとにした分析を行った。Chondrakis and Sako(2020)の米国での類似産業の実証研究を参考にして、本年度は、発注側企業の特性(売上高、従業員数、研究開発費率など)をeolなどのデータベースを用いて、主要な上場企業を対象に収集した。また、受注側企業の特性を、帝国データベースなどを用いて、主要な特許法律事務所に対して収集した。加えて、取引ネットワークを明らかにするために、受注側企業の名寄せの作業を進めた(ネットワーク変数、つまり中心性、空隙などを算出するため)。これらを総合して、(1)組織間の取引関係における相互依存性が資源蓄積にどのような効果を持つのか、(2)資源依存関係によって、発注-受注者間の境界がどのような変化を受けるのか、について分析した。感染症対策などのため、データ処理に必要な人員が十分に集められなかったゆえに、データセットの追加と分析に時間が遅れ、記述統計を中心とした分析しかできていないが、日本の産業コンテクストでは、米国のように並行調達(社内と社外)が柔軟に変更されるわけではなく、安定的であることが示唆された。これは、日本では、多くの大企業が、出願代理業務を5社以上の多くの特許法律事務所へ並列して発注している一方で、自社出願の割合が少ないためであろうと推察される。
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