最終年度においては,高度で複雑な感情労働を行い,同時に知識労働も行う職種として,社会保険労務士,キャリアカウンセラーを取りあげ,①彼(彼女)らの知識労働と感情労働の特徴,②二つの労働が成果や満足,心理的負担に与える影響について分析を行った。 まず知識労働の特徴としては,彼(彼女)らの提供する知識や情報は基本的なものから高度なものまで多様であり,それを利用者の事情に合わせて選択し,あるいはカスタマイズして提供していることがわかったといえる。次に感情労働の特徴としては,彼(彼女)らの多くが一対一の感情労働を行うのではなく,利用者の関係者を含めた一対多数の感情労働を行っていることがわかった。またその内容も,単純に相手を快適な気持ちにするものではなく,自信を持たせる,そのために辛抱強く待つ,諫める,導くといった高度なものが含まれているとわかった。それゆえ,その遂行に当たっては表層演技ではなく深層演技が必要になると考えられるのだが,事例にあげた対人サービス職は,自らの働く目標や信念に基づく深層演技をしていたといえるだろう。 最後に二つの労働と仕事の成果や満足,心理的負担との関連性についてであるが,こちらも二つの職種において差が見られた。キャリアカウンセラーでは感情労働の影響力の大きさが目立ったのに対し,社会保険労務士では,知識労働と感情労働に相乗効果,あるいは補完効果のようなものがあることがうかがい知れたのである。特に仕事の成果を高める点においてそれは顕著であった。ただし,それを踏まえてもなお,両者において感情労働は重要だといえる。彼(彼女)らの仕事が停滞する背景や,それが心理的な疲労につながる背景には,感情労働の不全があるからである。感情労働が上手くいかない場合,クライアントや利用者と魔関係を継続することが難しくなってしまうのである。
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